前穂高岳北尾根におけるヒヤリ・ハット体験
【日時】2005年8月5日 11:40頃
【天候】晴れ。
【場所】穂高連峰 前穂高岳・北尾根 1・2峰間のコル下(涸沢側) 懸垂下降地点付近
【パーティ】男3人、女1。(北尾根登攀経験者2名、1名は10年前、1名は5年前)
■状況
北尾根5・6のコルを06:51に登攀を開始し、核心部の4峰、3峰を順調に越え残すは2峰を懸垂で下降し、前穂高岳山頂へは一投足の地点であった。
通常、正規ルートは、2峰から真っ直ぐ前穂に向かった踏み跡をたどり、約5mの懸垂でコルに降り立てば、前穂高岳山頂へは数分の距離である。なお、天候等条件がよければ懸垂下降することなく、クライムダウンも可能である。
(下写真の青線が正規ルート、赤線がわれわれのとったルート)
×印が落石を受けた地点
■われわれのとった行動
2峰のピーク手前3m程の右側(涸沢側)に岩稜が切れている箇所があり、そこより涸沢側を見ると、残置ハーケンが3本、スリングが5,6本掛かった比較的新しく尚且つシッカリとした懸垂支点があった。
その懸垂支点から更に7,8m下にも同様の懸垂支点があり、約10mほどの懸垂で、安定した地点に降り立てそうであった。
2回の懸垂で安定した地点に降り立ち、そこから徒歩で尾根上にあがれば、登攀終了と考えていた。
「2回の懸垂?」と思ったが懸垂を行った。最初の下降箇所は比較的安定していた為、トップ(男)並びにセカンド(男)はクライムダウンで降り、サード(女)とラスト(男)は懸垂にて降りた。
2回目の懸垂は、浮石が多く、神経を使っての懸垂であった。そこから、安定した地点と思われたところは、傾斜もあり、あまり安定はしていなかった。
すぐに1・2峰間のコルに向かって約10m程、斜度40度弱をトップ(男)が中間支点を1箇所取ってアンザイレンして登ったが、足場が悪く浮石も多くて不安定なため、セカンド(男)の要請で終了点でロープをFIXした。
セカンドはFIXされたロープにオートブロックでバックアップを取ってから登り始めた。その時、サード(女)はセカンドの後方(下方)約3m程の距離にあり、自らオートブロックによるバックアップを取ったところであった。
セカンドがFIXロープの終了点に差し掛かったとき、足元が崩れ落石を起こし、赤子の頭大の岩がサードのヘルメットに当たった。そのとき、咄嗟に頭を手でかばったので、右手薬指に裂傷を負った。
怪我は大したことはなかったが、後で調べたら、ヘルメットに小指の先半分くらいの凹みが出来ていた。すぐに前穂高岳山頂で傷の手当てを行って、事なきを得た。
■反省
- 懸垂地点を間違えたこと。「2回の懸垂?」と思ったとき、正規ルートをはずしていることに気が付いていなかった。(事前のルートガイドを熟読していれば懸垂は1箇所、約5mと記述されている。)
- 浮石の多い懸垂であったので、オカシイ、と思いつつ、懸垂を行ってしまった。
- 第2の懸垂支点上ではまだ登り返すことが可能であったにもかかわらず、その可能性を追求しなかった。
- 更に、コルに向かってトップが登り始めたときも浮石が多く、神経を使っての登りであったのも、正規ルートでないことを示している。
- 2名の経験者も過去の経験であったので、様子が変わったのかとしか思わなかった。
- 落石がヘルメットに当たったのが不幸中の幸いと思われる。もし、肩などに直撃であったら、骨折していた可能性が大きいと思われる。
- セカンドが落石を引き起こした延長線上にサードが位置していたことが落石の直撃につながった訳であり、浮石が多く悪条件である箇所である事を認識していたトップ並びにセカンドが下の二人に適切な位置どりを指示すべきであった。
- 北尾根経験者であるトップ(SL)とラスト(CL)は、過去の体験から「核心部は迷いやすい4峰の通過」と考えており、ガラ場の4峰、ロープワークを要する3峰を通過した安堵感から2峰の下降点については心理的にも心の緩みがあったと考えられる。
■疑問点
- インターネットなどいろいろな情報を調べていったが正規懸垂支点の右(涸沢側)に懸垂支点がある、といった記述は見当たらなかった。
- その間違った懸垂支点もシッカリとしており、最近何度も使われた形跡が窺われた。
- 何故、懸垂支点が2箇所、1・2峰間のコルを外して涸沢側のガリー下に設定されていたのか。なお、その懸垂終了点から下は、涸沢カールへ急傾斜で落ちているのだ。
- 我々の後から追い付いた単独行者も同様にニセ懸垂下降点に誘われている。(我々が下から「こっちじゃないぞー!」と正規の地点を大声で指示した。)