私説・中高年のためのネパール登山の教訓
1.食事について
僕は今回トレッキングも初めて、勿論ネパールでの登山も初めてであるので、現地にいるときは「こんなものなのかー」と思う程度であった。が、登山にとって「食」は一番大切なことなのである。
それを隊で行くから、隊が日本食をもっていくから、食べられなくなったときには出してくれるだろう、と多寡をくくっていたのが大きな間違いのもとであった。そのため、登頂できなかった、と言っても過言ではない。
隊として、日本食を持った、と聞いていたが、登山中は殆ど我々の食卓には出てこなかった。隊員の殆どが共同食料として何をどの位持ったのかを把握しているのは隊長のみであったし、隊長は全ての責任を持っているので、気が回らないのである。
そこで
- 何の食料をどの位持ったのか、を数値化しリスト化すること。
- 事前準備として、何をどの位持っていくかを検討すること。これはネパール登山経験者がメインとなって、各隊員と良く調整して決めるべきである。
- 具体的な食材の選択の考え方として、食欲がなくなったときに何があればご飯が食べられるか、である。長期でしかも高所まで人手による運搬なので生もの以外のものとなる。
- 梅干、各種佃煮、海苔、乾燥食品(お湯で戻すもの)、日本茶、味噌汁、密閉された角煮などが有効と思われる。
僕は「そんなものかー」と思っていたので、一切食料は持たなかった。これは失敗である。いくら隊を組んでいくのでも、自分の食は自分で管理しないといけないことがよくわかった。他人の目を気にすることなく。
- 米は現地調達となるが、キッチンへ高くてもいいから美味い米を用意するように指導する必要がある。
幸いプルクンヒマールではネパールで最高級品の米を用意してくれたので、臭みや不味さはなかったが、高所で米を炊くことからどうしても日本のような米の飯にはならない。
- 朝は必ずお粥でしたが、梅干もお新香漬物もないので、醤油をドボドボとお粥にいれて食べる。これでは胃に良いわけが無い。香の物、佃煮、などがあれば食が進むと思われる。(僕の場合、Oさんから出発前に美味しい梅干しをいただいたのが救いだったが。)
- 最初に用意したリストを元に、隊員のなかから食料担当を決め、隊員たちの様子をみながら、隊員と相談しながら、日本からのおかずを出すために、キッチンと常に連携を持てばある程度改善できると思う。
キッチンが朝、昼、夕食と用意してくれるので、その補助食品は自分で用意するものと、隊として用意するものとよくよく検討する必要がある。
2.行動食について
通常日本の山での食事形態は、朝食、夕食として、昼食兼行動食。
行動食は空腹にならないように適度にパンや握り飯などを2時間程度の間隔をもって食することによって、いわゆるシャリバテ状態を防ぎ、快適な登山が出来る。
しかし、今回のネパールキャラバン、登山については、一日3度3度キッチンが用意してくれるので、行動食の類は全く用意をしていなかった。これは失敗であった。
高所で、水を沢山飲んで、しかも食欲がないので、胃腸の具合はあまりよくない。その上、例えば朝たべたら昼迄何も食べない、というのは身体のために余計よくないし、シャリバテ状態がつづくこととなる。少なくとも行動食は自分の分は用意したい。
では、どんなものがいいか。遠隔地でしかも長期なので非常に難しいところであるが、例えば乾燥芋とか卵スープ(お湯は持って歩ける)、フランスパンなどが考えられる。
3.薬について
一番心配していた、利尿剤(DIAMOX)は事前準備さえ上手く行けばあまり必要は感じない。事前準備は後述する。
DIAMOXの入手方法は薬局では買えない、行きつけの医者、医院で内科医に相談すると売ってくれる。僕の場合には10錠300円で売ってくれた。
必携薬品(自分用)として、胃腸薬、消化剤、頭痛薬。僕の場合には正露丸、太田胃散、ヴィオフェルミン、バッファリン。胃腸薬は普段自分が飲んでいるものを持参した。毎食飲む事を想定して用意したほうがいい。バッファリンは少しでも高所で頭痛がしたら飲んだほうがいい。
4.装備について
キャラバン中荷物は運んでもらう。ただし、人が運ぶか、ラバや馬が運ぶかによって違ってくる。 僕らは当初ラバが運ぶことを想定したので、その準備を記す。
荷物(主に70リットル程度のザック)を馬などで運ぶ場合、岩かど、木などに荷物がぶつかったり擦れたりする恐れがあるので、カバーを懸けて紐でシッカリ結ぶ必要がある。
カバーといっても山で使うザックカバーは消耗品として使うには高価すぎるし薄いので直ぐに擦れて破ける。
そこでホームセンター等で適当な袋またはシート状のものを購入し紐、バンドで締める。ただし、キャンプ場に着けば梱包を解く作業と翌朝、作る作業があるので、梱包、解体に便利なものを選ぶといい。
僕の場合には、土嚢用袋売り場で見つけた木屑入れの袋を使って紐で縛った。これは有効であった。
人が運ぶ場合には、ポーターの背中で背負うので擦れたり、破けたりというのは殆ど無い。簡易なカバーでつけて縛っておけば大丈夫だ。
なお、ザックでもいいのだが、大型のダッフルバックは横開きなので中身が全部見えるので、収納取り出しに便利だ。僕はこの次にはそれにしようと思っている。登攀用具などは、その山にあった装備としたい。
5.山の選定について
今回は未踏峰の言葉にコロリと参ってしまい、参加したが、未踏峰の場合には、不確定要素が多い。そしてわれら中高年にとってはその不確定要素が身体の負担になることが多い。
これから、もし、仮に6000mを目指すならば、未踏峰などといわず、先ず高所になれることから始めたほうが成功率は高いように思われる。それには既知の良く知られた山で先ず経験をしてから未踏峰へというのが順序と思われる。
既知の山は、いろいろな人が登っているので、記録がある、シェルパも慣れている、高所順化のやり方も決まっている、装備、食料などノウハウも相当ある、などの理由である。例えばフレンドピーク6300mなどがいいのではないかと思う。
6.事前の身体づくりについて
高所での一番の仕事は高所に対応できる身体であること。それにはどうしたらいいのか。先にも記したが、食がとれるかどうか、に掛かっている。
胃腸を健在にしておくにはどうしたらいいのか、ということである。食えれば登れる。
僕の失敗は食にあった。だから高度障害になった、と思っている。どうして食に失敗したかの大きな理由に、高所では水を飲んで出すこと。一日に3~4リットルの飲める身体であること。
僕はキャラバンが始まった日から一生懸命水を飲んだ。が意識して一日飲んだ量は2リットル程度であった。飲めないのである。登山計画が出来上がるころ、少なくとも3ヶ月以前から日本にいるときから3~4リットル飲む習慣をつけておかなければ登山には身体が間に合わないと思う。
次回計画書ができたら水、お湯、紅茶、なんでもいいから3から4リットル飲む習慣をつけようと思う。
7.日本にいるときの高所訓練について
僕は登山開始の一ヶ月前から3回富士山に登って一晩山頂で過ごした。また、アミューズトラベル(株)で4000m付近の低酸素経験を3回3時間行ってネパールへ行った。
これは、高所には成功した、と思っている。それは、血中酸素濃度SPO2が4900mでも76%で登山には充分耐えられる酸素濃度であったと思っている。
富士山頂での滞在や北アルプスや南アルプスの縦走なども織り交ぜたらなおいいと思う。酸素濃度60%以下では、危険地帯となるからである。
以上7項目を守れば60歳以上での6000mもけっして夢ではない
竜少年