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北アルプス 読売新道から水晶岳~烏帽子岳縦走

 読売新道というのが北アルプスにある、と前から聞いていたことはあったが、まさか自分でそこを登ろう、なんて思ってもいなかった。ましてや、奥黒部ヒュッテから水晶岳までの総延長距離11キロ、標高差1400m以上だという。

 ヒョンなことからokkoさんの計画に竜少年とヨーコさんが軽~い気持ちで、一緒に行こうゼイ、となった。しかし、行く気になってよくよく調べてみると、暑い、苦しい、長い、つらい、といったインターネットの情報に「やっぱ、止めとけばよかったかな~。」と弱気虫。それではと小屋泊まり、小屋泊まりと叫べども「いや、絶対テントだ~。」と還暦を迎えた竜少年にとっては地獄のお言葉が返ってくる。よーし、やってやろうじゃないの、と空威張り。どこで行き倒れるのか見当もつかない。あ~、行くしかないか~。   



■8月16日(金) 晴れたり曇ったり

扇沢トロリーバス07:30=黒部ダム07:45-07:50~"ロッジくろよん"08:25~平の小屋(平の渡し)11:50-12:10=針の木側渡し場12:20-12:50~奥黒部ヒュッテ14:50

 扇沢の一番トロリーは07:30が始発である。そのためには06:45からキップを売り出すので一番に並んでおくことが肝心である。2番トロリーは8時30分になってしまいここで一時間以上のロスタイムは平の渡しでさらに2時間以上のロスタイムに繋がるからだ。

 よく眠れなかった夜行バスの疲れを引きずって、黒部ダムの上を通って舗装された観光用周遊道路が"ロッジくろよん"まで続く。
 ロッジくろよんからは黒部湖を左下にみながら延々と歩く。救いは所々沢を横切るので水には不自由しないが、どの沢も水が冷たくない。極力軽量化を図り、一人おおよそ12キロ程度に荷物を絞ってきたので水が得られるのはとても有り難い。

 登ったり降りたりの繰り返しで、梯子で登ったりおりたり、一番の梯子は登りだけで111段もあった。歩いても歩いても標高は1450m~1500mを行ったり来たりでアルバイトの割には一向に標高が上がらない。平ノ渡しの時間が12:00と14:20の時間制限があるので、できたら12:00に乗りたい、と思っているので、気ばかりあせって余計疲れる。

 11:50分にようやく平ノ渡し場に着いた。しばらく待っているとゴム草履をペタペタさせながらお兄さんが降りてくる、多分若いけれど平の小屋のオーナーだと思われる。
 船室に入ると名簿を記入させられる。僕ら3名と13名の中高年の男ばかりの団体、単独行など全部で25名だったと思う。渡し賃は無料。ありがたい、ありがたい。向こう岸に渡ると今度は黒部湖を右下に見ながら行く。桟道も梯子も良く整備されているが登り下りの多さにはガックリくる。やがて黒部湖も河原になる頃白砂の広場を横切り、東沢谷の橋を渡ると奥黒部ヒュッテのテント場に着く。

 テントの申し込み用の名簿を見たら、翌日の行程欄には殆どのパーティが「上の廊下」と書いてあった。そりゃそうだ、読売新道などより上の廊下の方がよっぽど魅力的だもの。
 夜間大雨が降った。

■8月17日(土)晴れたり曇ったり
奥黒部ヒュッテ05:30~赤牛岳11:55-12:20~温泉沢の頭14:40~水晶岳手前2904ピーク手前(幕営地)14:50

 いよいよ今日は読売新道を登る日だ。途中ビバークを覚悟で一人3~3.5リットルの水を用意する。
 朝5時30分、小屋の横を通っていきなりの急登。僕の足のすぐ下にヨーコさんの頭が見える。尾根に出るといくらかは傾斜も緩くなるが行けども行けども登りだ。目標地点は遥か彼方の赤牛岳。暑い、苦しい、長い、辛い。まさに調べた通りの登りである。木の根に掴まり、岩を跨ぎ、杖にすがって息も絶え絶え、水を飲んでは汗となり、汗をかいては水を飲み、全身汗みずく。聞こえるのは自分の喘ぎ声、見えるものは深い深い樹林の海。

 この道を下ってくる人もあって、登り優先、と上で待っていてくれて、がんばってー、などと声を掛けてくれるが、それにも応えようも無く息を切らせて登る。一向に緩むこともない登りに気が狂いそうになる。漸く赤牛岳についてほっとする。赤牛岳からは稜線歩きとなり、多少の登り下りはあっても今までほどではないが、濃いガスの中を黙々と歩く。

 読売新道は水場もエスケープルートも無い、しかも、水晶小屋周辺は幕営禁止区域になっているので、水晶の手前で幕営するか、水晶を越えて幕営するかの選択に迫られる。もし、水晶小屋手前で幕営するようなら、一人水3リットルは必要になろう、また水晶小屋では水は一人500ccしか売ってくれない。水晶小屋を越えての幕営は野口五郎小屋か三俣山荘になる。

 雨模様の天候と赤牛までのアルバイトでパーティ全体が疲れているので、温泉沢の頭を越えた所で雪渓もあって、整地されているいい幕営地を見つけたので、今日の泊まりとすることとした。本来、キャンプ指定地以外は幕営禁止である。ただし、午後4時を過ぎればこの限りではないらしい。幸いパトロールには見咎められずに済んだ。
 獲得標高差約1400m。行動時間9時間20分であった。
 今日も夜半に雨が降った。

■8月18日(日)晴れのちくもり
幕営地06:20~水晶岳07:15-07:30~水晶小屋08:00-08:15~野口五郎小屋11:05

 幕営地をゆっくりと出発する。槍の穂先が天を衝いている。少しの登りで水晶岳に着きとうとう読売新道を完歩したことになった。富士山、北岳、笠、御岳、乗鞍、焼岳、西穂高岳、奥穂高岳、北鎌尾根、常念、燕、鹿島、五竜岳、白馬、妙高。名だたる山々の360度の展望をほしいままに至福の一時である。

 長い長い読売新道が赤牛岳の後にうねうねと延びている。あそこを登ったか。僕にもまだそんな力が残っていたのか。展望を楽しむ周りの歓声とは別に僕はなにやら知らず心が静かになっていくのを感じていた。

 水晶岳から高山植物など楽しみながら、水晶小屋に着く。水はミネラルウオーターお一人様500cc一本限り400円であった。真砂岳を通過する頃にはガスが上がってきてあたりはもう真っ白な世界になったしまった。野口五郎小屋にC県登山学校の三期生の桑さんがいるというので行ってみる。 小屋の中から髭もじゃの桑さんが出てきて、やー、やー、ほれスイカだ、ビールだと大変な歓迎振り。烏帽子までの予定を中断して、もうここで泊まるしかないでしょ。外は一面真っ白で少し雨模様であった。

■8月19日(月)雨
野口五郎小屋06:00~三つ岳07:20~烏帽子小屋08:05-08:15~ブナ立尾根登山口10:40~ダム堰堤11:00=タクシーにて大町11:40

 台風13号の影響で高瀬ダムから下の葛温泉の手前で局地的な豪雨で土砂崩れがあり、車が通るかどうか分からない、という情報で、歩くしかないかと思いつつ、雨の中を小屋の人々の見送りを受けて出発する。
 既にここは裏銀座コースと呼ばれる縦走コース。幸い稜線上では大雨にも大風にもならず三つ岳まで淡々と歩を進める。三つ岳から白砂のジグザグの下りの中可憐なこまくさの群落があたりをピンク色に染めている。雷鳥の親子とこまくさを半々に見ながらの稜線漫歩は天気がよければもっと楽しいものになったかもしれない。

降ったりやんだりのブナ立尾根を一気に下って高瀬ダムへと降り立った。 振り返ってよく歩かせてくれたことを山に感謝して深く一礼をして僕の読売新道は終わった。幸い高瀬ダムにはタクシーが客待ちをしていたので、土砂崩れは修復したのだろうと思った。(記 竜少年)



■感想
 還暦の竜少年、ヨーコさん、長い長い読売新道に付き合ってくれてありがとう。
 きっと独りだったら、辛い辛い読売新道になっていたと思います。
 水晶岳から見た読売新道は、登ったからこそ味わえる深い感慨とともに私の目に焼きついています。
北アルプスを思うとき、必ずよみがえるひとコマになることでしょう。

 大して体力の無い自分が、少し背伸びをして出かけた読売新道でしたが、優しく迎え入れてくれた山に感謝しています。登らせてくれてありがとう。
「二度とここを登ることは無いだろう」と思いながら歩いていたはずなのに「また行ってみたいな」と思い始めている自分がここにいます。
 多分それは、岳樺のお二人がご一緒してくれて、数倍山を楽しむことが出来たからでしょう。お二人の馬力と魅力と魔力に感謝感激しています。
 山の寛大さと大自然の雄大さ、そして山仲間の暖かさをたっぷり味わうことができました。
本当にお世話になりました。楽しい夏山をありがとうございました。(okko)

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 パーティは還暦の竜少年、okkoさん、ヨーコさんの3名で、読売新道の辛さは事前によく把握してきたので、軽量化を図ったことと、モチを高め、辛くとも登る事でよくまとまった、と思う。

 幸い台風13号の移動とともに行動してきた感があるが大きな天候の崩れも無く無事完歩出きたことは運が良かったと感謝している。個人的には、ゆっくりではあったが、まだ自分の中にこれだけ登れる力が残っていたのか、と少々戸惑っているところだ。長丁場の登りはビスタリ、ビスタリひたすらビスタリに徹することだと思う。
 いずれにしてもヨーコさん、okkoさんに助けて貰って登らせてもらった事感謝している。(竜少年)

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 期待と不安、緊張感でスタートした読売新道、長くて暑くてブヨに刺されて本当に辛かった。でも歩き終えた今は喜びもひとしお。他には誰もいない3人だけの静かなビバーク、水晶岳からの360度の景観、okkoさんと桑さんのお陰で思いもかけず野口五郎小屋のVIPルームに宿泊、大歓待を受けたこと、雨の中の下山中、コマクサの大群落や雷鳥の親子に出会えたこと、恐れていた最後の難関ブナ立尾根を2時間半で急降下できたこと、そして、台風のおかげで長野新幹線での帰京、車中でおぎのやの釜飯を肴にビールで祝杯、等など。
 竜少年さん、okkoさん、最高の夏休みをありがとうございます。(ヨーコ)


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