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第17回全国雪崩講習会参加の記

雪崩に関しての知識は増えたものの、
よけいに雪崩というものが分からなくなった??


-日本勤労者山岳連盟主催-


千畳敷カールから眺めた雪の宝剣岳
登山技術・知識の中で雪崩対策は最も厄介なものだと思っています。

滑落停止やロープによる確保などは(条件は限られるとはいえ)実際に訓練・体験できますが、雪崩については本当に流されてみるわけにはいきません。

雪崩講習会風景
雪崩については机上の知識しか持っていないということに漠然と不安を持ちながらも、長年無事に登り続けてきたことでこれまた漠然とした自信のようなものも感じていました。

しかし、何年か前から出版されるようになった雪崩に関する書物を読むと(未だ充分に理解できていませんが)、かつての登山教本等で得た知識がいかに貧弱だったかを思い知らされました。

講習会受講中に雪崩発生
それに加えて、ビーコン・ゾンデ・シャベルの携行が常識化してきて、「持たない者とは雪山へ行かない」という声のプレッシャーを受け、今年になってようやく重い腰を上げて雪崩講習会に参加したのです。



2月9日(日)
積雪断面(インクで着色)<br />
中央アルプス山麓・駒ヶ根に集合しバスでしらび平へ。前夜の雪が林道のあちこちに小規模な雪崩を起こしていた。しらび平手前で林道の除雪の為しばらく待たされる。登山目的ならば不安が募るところだが、雪崩講習会にはうってつけのコンディションだろうと嬉しくなる。

ロープウェーに乗り換えて千畳敷に上がり、ホテル千畳敷の食堂で開校式。下は基本クラスから上は講師養成コースまで7クラスに分かれており、何と、受講生の数よりも講師・スタッフの数のほうが多いのである(今回はなぜか例年より受講生が少なかったそうだ)。

救助犬も参加していて、想像していたよりも大がかりな講習会らしい。私の受講する基本クラスは生徒が7名で、4名(A班)と3名(B班)の2班に分かれる。

午前中は千畳敷ホテルの前の尾根を少し登り、その尾根の途中にある雪庇の断面を観察する。雪庇は既に講師陣によって掘られていて断面が観察できるようになっている。インクで着色された断面は教科書に書いてあるように層が幾重にも重なっていた。

一旦、ホテルに帰って昼食。その後、午後の講習のためホテルから出ると、左側斜面に小規模な雪崩が出ていた。雪庇を登山者が崩し、それが表層雪崩を引き起こしたらしい。やはり雪崩講習会にはいいコンディションだ。

スクラムジャンプテスト<br />
(ジャンプするまでもなくこのあと直ぐに崩落)午後からは、弱層テスト各種を教えてもらう。ハンドテスト・シャベルテスト・コンプレッションテスト・スクラムジャンプテストの4種類。近くの斜面で雪崩が出ていただけあってどれも簡単に層がずれる。スクラムジャンプテストではジャンプする前に歩いただけで上層がずれ落ちた。

その後、自分たちで2m近いピットを掘って積雪層の観察。最初は雪堀りを楽しんでいたがだんだん疲れてくる。私はぎっくり腰になりやすいので心配だ。

夕方に、ホテル内でビーコンの説明を受ける。本で読んだもののよく理解していなかったので明日の実習が少々不安。

夕食前に雪の変態に関する講義。これがまたよく分からない。事前に本を読んである程度理解していたつもりだったのだが。

2月10日(月)
朝食前に雪の断面観察。また自分たちでピットを掘り断面を作る。朝飯前にしては重労働。

朝食後はいよいよビーコンの使い方。講師が埋めたビーコンを捜索するわけだが、信号が強い方向の範囲が180度もあって進むべき方向が定まらない。

習ったように信号の強い方位の中間方向へ歩いていくと信号がさらに強くなるところが見つかる。そうやって何とか2mレンジまで近づいてからは直角法というピンポイント捜索に切り替える。

3人が互いに50cm程ずれた場所を埋没地点とした。これを3回行って、毎回1m以内の精度で埋没地点を見つけることができた。

ゾンデで人の感触を経験する次は埋没体験。ほとんどの受講生が地方での講習会で既に体験済みとかで、ここで埋められることになったのは未経験の私ともう一人だけ。埋没といっても呼吸ができないような埋め方はできないのと、安全のため外界との連絡用に無線機とそのマイクを持ち、顔周辺に空間を作った状態で埋められる。

すぐに雪で体温が奪い取られていくのが感じられる。身動きはほとんどできない。下界からのコールや足音はよく聞こえるが、こちらから発する声はあまり聞こえないようだ。7,8分経ってから掘り出してもらう。

午後は、初動捜索。行動中に仲間が雪崩に埋められたという想定で、ビーコン捜索・ゾンデ・掘り出し・保温処置・安全地帯への搬出を一連の流れで行う。

遭難発生から搬出まで24分くらいかかる。やるべきことが理解できているメンバー7人で滞りなくやってこれだけかかっている。

実際にはもっと少人数の場合が多いだろうし全員がこうした動きを知っているとは限らない。そういった観点からは生存の目安である15分以内の掘り出しはかなり厳しいと想像される。

夕食時に閉校式。あと半日あるが、とりあえず終わりとし、その半日の講習内容は受講生の希望を聞いて決められる。

我々のB班はレポートの問題で雪の変態の理解が不十分だったようでこれを再度雪の断面で観察することになった。

2月11日(火)
ハンドテストの円柱<br />
朝食前にレポートの講評・補足説明。朝食後に雪の断面観察に外へ出る。風はあまり強く無いがガスで視界は悪い。

雪氷の専門家の先生に同行していただき、霜ざらめ雪の発達している場所に案内される。同じ千畳敷カールの中でも少し場所が変わるだけでずいぶん積雪の様子が違うことが分かる。

ここの霜ざらめ雪は結晶が大きく成長しているが、弱層テストをしてみると意外と強度があり、霜ざらめ雪だからといって必ずしも弱層とも言えないようだ。雪崩の判断というのはなかなか難しい。

11時のロープウェーで下る予定なので早々にホテルに引き上げる。この日は千畳敷ホテルで二組の結婚式があり、ホテルの外に雪で小さな可愛らしい教会が作られている。

寒い中、新郎新婦はきっとダウンジャケットなんぞを着て出てくるのかと思ったら、タキシードとウェディングドレス姿で現れたのには驚いた。しかし本人たちは熱々で気にしていなかったのかもしれない。

11時にロープウェーで下山。普段の山行とは勝手が違ったためだろうか、とても長く山にいたような気がする。

雪崩に関しての知識は増えたものの、よけいに雪崩というものが分からなくなった(というよりこれまで無知だっただけだが)。

この講習はより正しい知識を得るためのほんの序の口でしかない。また来年、中級コースを受講したいものだ。それまでによく雪を見ておこう。きっと、これまでとは違った目で見ることができると思う。

雲海

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