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未知の長いクラックでのリードについて

― あわせてマルチピッチの場合についても ―



ヨセミテで、すこしばかり未知で長いなーと実感するクラックのリードやクラック主体のマルチピッチルートを経験したが、その対処について備考録をまとめた。

もちろん、最善の対策はクライミング能力を高めることだし、そのこと抜きにフレンズやロープワークのみに関心を注ぐのは危険である。この危険を十分承知した上で、どのような処方箋があるのか、考えてみた。



■ ルートに対する見通し
こんなことを書くとはなんとも軟弱だが、日本では、<ルートの長さ、フレンズのサイズ・数、支点の有無、場合によってはムーブにいたるまで>の情報を得て取り付く。

さて、ヨセミテではトポを見ても、クラックのサイズとグレードが記されているだけで、はたして何メートルあるのか、確保支点があるのかどうか解からない。双眼鏡なので事前偵察をしても、そんなに明確にはならない。

とはいうものの、ムーブ、レスティングポイント、フレンズのサイズ、セットする位置、ロープの流れを予知できるのとできないとでは、力のセーブ、安全に大きな違いがある。この予知能力が必要不可欠だが、長いルートを数多くリードして身に付けるしかないのであろう。

■ バックロープの取り扱い方、径
60mロープで30m以上登ってからの下降(原因が敗退であれ何であれ)、あるいは、ロープのスタックに備え、バックロープを引きずるのが安全である。

このバックロープが、しばしば、易しいクラックルートではスタックするし、レッジでの管理もやっかいである。バックロープも含め2本、ダブルロープとして扱ったほうが、操作が簡単ではないだろうか?その場合、日本人の体格では、10.5mm2本でなく9.5mm2本(あるいは、9,9mmと9mm)で十分ではないだろうか?

今回は軽量化のため、バックロープにあたる2本目を8.3mm(アイスクライミング用)にしてみたが、ロープの伸び率など特性が異なり、懸垂下降時など扱いが難しかった。

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■ 確保・下降支点用ギア
トポで確保支点と表記されていてもレッジがあるだけで、ボルトやピトンで整備された支点はなく自分でつくる場合も多い。

ビレヤーが上に引きずり上げられることを想定して、上下方向対応可の支点、あるいは、確保場所よりかなり上に支点をつくらなければならない。支点用に、予備のフレンズ(最低3個)、スリング、ヌンチャク、ビナが必要となる。懸垂下降の支点にはフレンズは高価だから、ボルトキットを持参したが、ナッツ、ヘキセントリック、岩塔にかけたスリングで代用することも可能であろう。

■ 中間支点用ギアの数量
ルートも30mを越すと、出だしは膨大と感じたギアも、終了点が近づくと少なくなり心細くなってくる。その対応策は、「クライミング技術を上げるかルートグレードを下げるかして、少ない中間支点で余裕をもってリードできるようにする」が王道だけど、それ以外の策としては


  • 十分なギアを持つ。

    フレンズ3セット、ストッパー1セット、ヌンチャク10本、スリング短6本長2本、カラビナ10枚くらい携行してリードする。

    こんな大量のギアを身に付けてのリードが可能となるためには、クライミング技術に加え、筋力と持久力が相当要求される。

  • フレンズより軽いストッパー、ヘキセントリックを使いこなす。

    ストッパー、ヘキセントリックを使いこなすためには、セット技術も大切だけど、とにもかくにも、「不安定な位置で時間をかけてセットできるだけのクライミング技術と持久力」が不可欠となる。

    しかし、クライミング能力が低くルート中安定したポイントでしかセットできなくても、そこでよく探せば、サイズのあったクラックをそれなりに見つけられる。くわえて、確実にセットされたストッパー、ヘキセントリックはフレンズより信頼できるから、<クライミング技術と持久力>のレベルに関わらず、携行すべきではないだろうか。

  • 絶対信頼できる中間支点をいくつかつくる。

    ルート中には足場が安定し確実な中間支点をつくれるポイントが必ずある。ここで絶対信頼できる中間支点をつくってやれば、その上ではグランドフォールがなければある程度ランナアウトは心理的に可能となる。


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■ 人工登攀による登下降
行き詰まった時、あるいはルート途中で降りざるを得ない時、とにかく人工登攀で登下降できる技を安全弁として(決してクライミング能力ではないが)もっていた方が良いだろう。

どんなことがあっても最後には無事に登下降できる技があることは、精神的余裕も生み出す。

■ マルチピッチ特有の困難
上記はマルチピッチルートにすべて当てはまるが、それ以外に


  • ピッチグレードを自分の上限グレードから2段階下げる。

    マルチピッチでは荷物も増えるし、疲労で能力も落ちる。アルパインクライミングの原則である「ピッチグレードを自分の上限グレードから2段階下げる」は、クラック主体のマルチピッチルートにこそ厳格に適用されるべきであろう。

    余裕がなければクライミングスピードは加速的に落ち、クライミングを楽しむどころか、ルートの脱出もおぼつかなくなるかもしれない。また、確保支点も中間支点も細心の注意を払って自力でセットするのだから、疲労困憊は精神的にも肉体的にも避けたい。

  • 人工登攀を多用できない

    人工登攀だからといって楽な訳ではないし、スピードも落ちる。クラックのサイズにあったギアがなければ万事休すである。

    プロテクションのとれないワイドクラックでは、やっぱり技しかないのであろう。人工登攀はフリーのルートではあくまでも緊急手段である。

  • 下降の難しさ

    敗退した箇所で、ロワーダウンか懸垂の支点がまず必要である。確保支点の整備されていないルートでは、懸垂の支点を1ピッチごと整備する仕事がある。ルートが屈曲している場合の斜め下への懸垂も容易ではない。

    そして、手足をスタックするクラックでは、ロープもまたスタックするので、ロープの引き抜きも気を抜けない。


どう考えても、カンニング的方法が効率よく通用するのはショートピッチであって、マルチピッチではクライミング能力でクライミングのトラブルを解決することがまず大切である。その意味においても、日本の本ちゃんルートを経験することは有効ではないだろうか。

クラックのクライミングはけっこう奥が深い。クラックの技のみならずルート中に出てくるコーナー、フェースでの技、そして上記のようなことが要求される。ピトンやボルトが打たれているルートにはない「自分の力で登る未知の面白さ」がある。トレースのない雪稜や人の入らない沢に通じるものがある。

錦少年 記

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