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中高年のための北鎌尾根攻略法

2001年の夏、槍ヶ岳の北鎌尾根を歩いてきた。

登山に興味を持ちはじめ、山の本を読み漁るようになった頃、「単独行」の加藤文太郎や「風雪のビヴァーク」の松濤明の著作を知った。

そして彼らが命を絶った槍ヶ岳・北鎌尾根に漠然としたあこがれを持つようになり、自分もトレースを刻んでみたいと思うようになった。

北鎌尾根を目指す登山者に、私のような思いを抱いている人は多いのではないだろうか。



さて、その北鎌尾根であるが、中高年の域に入ってから登るのはそれなりに厳しいものがある。

それは、


  1. アップダウンが激しく、行動時間が長いこと。
  2. ルート中にエスケープできるルートが無いこと。
  3. つねにルートファインディング能力を求められること。

…といった点で二の足を踏んでしまうためである。

中高年登山者が北鎌尾根を安全確実に登ろうとするならば、山岳ガイドの力を借りるのがもっとも賢いやり方だと思う。

事実、私たちが入山した時も山岳ガイドのリードのもとで「タイトロープビレイ」で安全にサポートされながら登っていた中高年登山者がいた。

しかし、山岳ガイドを気軽に頼める人たちばかりではない。経済的な問題もあるだろうし、どうしても自力でやり遂げたいと思っている人もいるに違いない。

そこで、まず情報集めとなる。私たちもインターネットの検索エンジンを駆使して、キーワードを「北鎌尾根」にして情報を集めた。これはずいぶんと役立った。

次は私たちが恩返しをする番だ。そんな訳で、ガイドレスで北鎌をやってみたい中高年登山者のために「北鎌尾根攻略法」を書いてみたいと思う。

ただし、これは正確無比で客観的なルートガイドではない。二人で合計109歳の平均的な中高年登山者が実際に感じたものであって、主観も入っていること、また2001年夏現在の状況をもとに書いたものであり、ルート状況は現在では大きく変貌している可能性があることをあらかじめお断りしておく。

この記事は自己責任を前提として読んでほしい。

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【ルート選び】

北鎌尾根をやるには大きく2つのルートがあると思う。


  1. 湯俣から入山する。
  2. 表銀座縦走路上の大天井ヒュッテから貧乏沢を下降する。

1,は、かつての岳人たちが辿ってきたクラシックルート。先人たちの思いを肌で感じられるルートである。
しかし、現在高瀬川(水俣沢)沿いの道が荒廃しており、橋なども崩壊していて困難な渡渉を強いられる。それに道中、営業小屋がないためツェルト携行のビバーク山行となり、荷物も重くなる。

2,は、最近主流のルートである。営業小屋が使えるため荷物は軽量化でき、順調なら一日で楽に踏破できる。しかし、貧乏沢の下降と北鎌沢の登り返しに多大な労力を使うことを覚悟すべきである。

ちなみに、
貧乏沢下降点 標高約2,530m
天上沢合流点      1,774m(下降差760m)
北鎌のコル      約2,520m(登高差750m)
槍ヶ岳          3,180m(累積標高差 2,160m!)

中高年にとってはどちらがいいのか?

これはもちろん 2,である。営業小屋を積極的に利用して装備の軽量化を図り、一日で槍ヶ岳を目指すべきである。

また、2,のコースをツェルト利用で歩く手もある。その場合、荷物が重くなる分第2日目の負担を軽くする意味で、第1日目に貧乏沢出合まで歩いておきたい。それも結構つらいけど。

結論:ルートは営業小屋利用の貧乏沢下降コース。


【コースポイントごとの攻略法】

ルートは「営業小屋利用の貧乏沢下降コース」とした場合の各ポイント毎の注意点を書いてみたい。

第1日目:中房温泉~燕山荘~大天井ヒュッテ
第2日目:大天井ヒュッテ~貧乏沢下降~北鎌ノコル~独標~大槍~槍ヶ岳山荘
第3日目:下山

ここでは、第2日に絞ってポイント毎の整理をしてみる。

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■大天井ヒュッテ(20~30分)貧乏沢下降点

  • 小屋の出発は貧乏沢下降点あたりで夜明けになる位でいい。もし日の出が5時頃だとすれば、小屋の出発は4:30頃が理想。
  • 貧乏沢には踏み跡はあるが、暗い夜道ではちょっと不安だからである。
  • ヒュッテから30分程で2766mのピークをトラバース。右側の尾根が低くなると下降点。
  • 下降点にはT型の立派な木の標識と赤布が下がっていた。

■貧乏沢下降点(約2時間30分)天上沢との合流点(約25分)北鎌沢出合(約15分)右俣出合

  • 5mほどのふくらみ(尾根)を越すとブッシュの中に踏み跡あり。
  • 焦って下らないこと。ゆっくりと体力を温存しながら下ること。まだまだ道中は長い。
  • 貧乏沢を下降してから50分ほどで右から滝が出る。ここで下降行程の約半分。
  • 沢の巻き道は左側についている。もろいガレ場を下ると天上沢合流点着。
  • 天上沢に着いたら右岸をそのまま遡ると渡渉せずに左岸に渡れる。約25分登ると左岸側から土砂の堆積した所が現れる。そこが北鎌沢出合。赤布がたくさん下がっていた。
  • 出合いから約15分で右俣出合。
  • 水は左俣から取れるので、ここで必ず補給すること。

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■右俣出合(約2時間)北鎌のコル

  • 右俣は幅2m位のガレ場、コルまで直上。
  • ガレ場を詰めていくと、左手から2本の小沢が入ってくるが、どちらも右、右と辿っていく。沢を分ける中の島状のところは右を辿ったら北鎌のコルに着いた。(以上は大天井ヒュッテの小屋番さんから聞いた情報)
  • コルはテント2張可。
  • 北鎌のコルで登攀具を身につけることになる。
  • ここまでで疲れていると、これからの行程が厳しくなる。コルには遅くとも10:30頃までには着いていたい。

■北鎌のコル(約2時間30分)P11(独標は巻く)

  • コルからは急な痩せ尾根、P8を越える。結構つらい。天狗の腰掛(P9:2749m)を越えると正面が独標(P10:2899m)
  • 独標の正面の壁は登らない通常千丈沢側岩壁基部の細いバンドをトラバースする箇所あり。
  • ハング状の先を横切りチムニーへ。残置ロープ有り。アブミのように使える。
  • 終了点から直上で独標先の小コルへ。
  • 独標の裏側のP11へ出る。
  • 私たちは独標ピークを踏まなかった。

■P11(約3時間)大槍の基部

  • P11~P15は千丈沢側をトラバース=III級くらいあるモロイ急傾斜面も登場する。
  • ルートが錯綜しているので注意。
  • 下って降りられない斜面と判断したら登らない、ルートではない。
  • 浮石の多いルートはルートではない。
  • 本ルート中、一番緊張する核心部といえる。
  • 私たちは一度懸垂下降でロープを使用した。
  • 「稜線通しは、懸垂下降があるのでダメ」とのことだったが、稜線通しを採った単独行の登山者に後から聞いたところ、ロープを使用する場面は無かったとのこと。
  • この区間のルートどりが所要時間を大幅に左右する。
  • 私たちは巻き道を辿ったためか、北鎌平の先で直接大槍の基部に出た。

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■大槍の基部(約35分)槍ヶ岳山頂

  • 山頂へはいろいろなルートがある模様だった。
  • 槍ヶ岳山頂へは、2/3ほど稜線通しに登り、チムニーを右側から回り込んでから正面の岩を左に巻くと頂上。
  • チムニーも登れそうだったが、途中に岩が引っかかっているようで気持ち悪かった。

以上で大体12時間前後の行動時間といったところだろうか。

当日、大天井ヒュッテを発ったパーティーの所要時間を比較してみる。

RN:われわれ2人組(平均年齢55歳)
A:6人の男女混合パーティー
B:単独行の青年
C:天上沢出合でビバークした中年男女ペア

 大天井ヒュッテ天上沢出合独標基部槍ヶ岳山頂所要時間
RN03:55発06:4511:2516:30着12時間35分
A04:10発06:45?19:45着15時間35分
B04:30発06:35?14:3010時間00分
C 06:00発?11:2519:45着 

天上沢出合でビバークした中年男女ペアを除くと、10時間から15時間35分まで、稜線上でのルートの選定いかんで所要時間に大幅な差が出ることがわかる。

ルートファインディングはくれぐれも慎重にやっていただきたい。

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【装備・重量】

小屋泊まりのメリットを最大限活かすために軽量化を図った。主な持参装備は以下のとおり。二人の平均で9.5kgだった。

 竜少年Nob
ツェルト 
ガスコンロ 
ガスカートリッジ 
小コッヘル 
ザイル(9×45) 
ヘルメット
ハーネス
スリング(長2,短2)
カラビナ(環付1,他3)
シュラフカバー
ヘッドランプ
防寒着
手袋
非常食・行動食
カメラ 
水筒(各自3リットル)
救急薬品 
合計重量8kg11kg

水は、各自3リットルずつ持参した。これは、脱水症状対策と時間切れビバークを想定してのものである。
実際には1.5~1.7リットル位しか飲まなかったが、「あと1リットル以上残っている」という事実が心理的に非常に安心感を与えてくれた。

前述したCパーティー(中年男女ペア)は、頂上着19:45で、水がほとんどなくなり、途中で一緒になったAパーティーに500cc分けてもらったそうである。

サプリメント食品について:
今回は二人ともいま話題の「アミノバイタル」を1日2回朝晩摂取してみた。劇的な効果はなかったものの、疲労が翌日に持ち越さないでかなり軽減されたように感じたのも事実である。

今後も山行時に使用してみて体感効果を検証してみたい。



【まとめ】

貧乏沢の下りと北鎌沢の登り返しで体力を出来るだけセーブして、かつ稜線上でのルートファインディングを慎重に行えば、ノンビバークでの北鎌縦走は中高年でも十分に可能である。

また、行動体力、防衛体力ともに落ちてきている中高年だからこそ、ノンビバークでやってほしい。

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