流動分散の危険とその対策
■ 確保支点が真価を問われる場合
確保支点が真価を問われる場合は、
A)リーダーが落ち、中間支点がすべて飛び、リーダーが確保支点の下に落ちていった時、です。
A)に比べれば、
B)リーダーが落ちたが中間支点が抜けずビレヤーが引き上げられた時、
C)フォロアーが落ちて、更に、それにビレイヤーがまきこまれて落ちた時、
は確保支点にかかる衝撃力は、はるかに少ないと考えられます。
■ Aの場合に確保支点にかかる衝撃力
通常は、メインロープでセルフビレイをとりますから、複数 の確保支点から流動分散でつながったカラビナにメインロープはインクノットでつながっています。当然、 その一方はリーダーに、もう一方はビレイヤーに繋がっています。
- リーダーの落下による最初の衝撃力
900kg(リーダー80kg、落下率2、ロープ の伸びあり)
- リーダーのスリング分落下による次の衝撃力
1000kg(リーダー80kg、落下率1、スリング弾性なし、リーダー側ロープの伸びきって衝撃吸収力なし)
- ビレイヤーのスリング分とビレイヤー側メインロープ分落下による次の衝撃力
1000kg(ビレイヤー80kg、落下率1、スリング弾 性なし、但しビレイヤー側ロープ衝撃吸収力あり)最初の衝撃900kgは、複数の支点に均等にかかります。
X 最初の衝撃900kgが、完全に複数の支点にかかり、その後、支点一つが抜ける場合。
→ 残りの支点にかかる新たな衝撃力は2である。
Y 最初の衝撃で900kgの力がかかる以前に支点一つが抜けた場合
→ 残りの支点にかかる新たな衝撃力は、2と 落下による最初の衝撃1の残り4です。
ただし、最初の衝撃で ロープは伸びきってないので2の力はロープの弾性で小さくなります。したがって、4は相殺されると考えて良いでしょう。
さらに、支点一つが抜けたため、流動分散でつながったカラ ビナにメインロープでセルフビレーをとっていたビレイヤーがまきこまれて落下し、その衝撃力3が残りの支点 にかかる可能性があります。
したがって、XであれYであれ、残りの支点に1000kgから2000kgの力がかかる可能性があります。実際には、人体の衝撃吸収力、ビレイヤー側ロープ衝撃吸収力、カラビナやスリングの遊びにより、減少するはずですが。
■ 対 策
確保支点が真価を問われる時は下方向の力がかかっ た時ですから、
- 支点が横に並んでいれば2本のスリングで力を均等に配分できます。支点3本なら 、まず支点2本を二つのスリングでまとめ、さらにそれを残りの支点と力を配分する。ただし、力は1/4、1/4、1/2と配分されます。
- 支点が上下に並んでいるなら流動分散を使い、メインロープを繋ぐカラビナに近い支点(上下に並んでいる内の下の支点)にバックアップをとれば2や3の力は少なく なります。
日本のテキストはもちろん、アメリカのジョン・ロングのクライミングアンカーでも、残りの支点に新たな衝撃がかかる危険にふれながらも、流動分散を強く勧めています。スリングの長さを調整して均等に力を支点にかける方法は、完璧ではないと言っています。
スクリュウーやフレンズを使う場合は、設置位置を自分で調整することも、ある程度は可能です。したがって、上記1)や2)の対策は難しくありません。それらの支点がピ トンやボルトほど強固でないことも併せて考えると、スクリュウーやフレンズを使う場合は、流動分散を避けるかその対策が必要かと思います。
(佐々木貴之 記)