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北アルプス 栂海新道縦走

北アルプス北部の雄峰・朝日岳から日本海へ。汗と涙の縦走記録

 あれは2年前、4人で朝日岳で惜しくもリタイアした平島靖子さんの追悼山行。今度は独りになってしまったが、なんとか完歩してみたい。しかし、6月ころから右膝に階段の上り下りに痛みを感じるようになり、やはり長い間左足首をカバーし続けてきた影響が出たのだろうか。左足首の痛みと不自由さにはなんとか慣れたが、加えて右膝の痛みを抱えて、完歩できるのだろうか。そしてもし、幸運にも完歩できたら、平島靖子さんに捧げよう。



■8月17日 晴れのち曇り
 蓮華温泉から遥か、はるか高みに朝日岳が見える。痛む膝を抱えてあそこまでいけるのだろうか。
 蓮華温泉から滑りやすい木道を標高差300メートルを一気に下り瀬戸川1160メートルに出る。これから朝日岳2418メートルまで登ることとなる。白高地沢で一息入れ、ゆっくりゆっくりと心がけて登る。

 この五輪尾根は縦走路に木道が敷設してあるが、斜めに傾いだり、傾斜が強かったりと危ない木道である。樹林帯を抜けた花園三角点からは、お花畑が点在し、アヤメやチングルマ、コバイケイソウ、マツムシソウ、ニッコウキスゲなどが群落している広い尾根を行く。水場は豊富でいたるところ溢れるほど冷たい雪渓の水が得られる。

 やがて朝日岳の稜線、吹き上げのコルに出る。日本海側からの相変わらずの風とガスが濃い。右に行けば栂海新道。明日は無事に栂海山荘までいけるのだろうか、不安な気持ちで透かして見る。朝日岳を超えて朝日小屋には午後5時少し前の到着であった。

 蓮華温泉0900~瀬戸川橋1000~花園三角点1255~吹き上げのコル1535~朝日小屋1655


■8月18日 晴れのち曇り
 今日は足が痛かろうがどうしようが、行くところまで行かなければ、と少し悲壮感漂う出発であった。
 朝日岳にもう一度登り返す。剣、毛無、白馬、旭、遠くは妙高、戸隠と朝の冷たい空気の中に展望が開ける。しかし、気持ちは展望を楽しむ、というより先行きへの不安が大きい。吹き上げのコルからいよいよ栂海新道である。今までの広い大通りを歩いていたところから急に狭い路地裏の分かり難い小道に入ったような樹林帯を行く。

 熊が出る、と聞いて来たが、満更嘘でも無さそうだ。樹林帯を抜けるといきなり展望が開け、尾瀬ヶ原のような湿原地帯を行く、照葉の池は半分が雪渓に埋まっている。あたりは雲上の楽園とでも言うのかアヤメ平、黒岩平と花々と雪渓の間を縫うように進む。

 黒岩平では雪渓の凍るような水で顔を洗い、水を補給する。黒岩山の途中で中俣新道の道を分け黒岩山に登る。熊笹に覆われて風も無く暑い、ガスも出てきて展望もない、暑い。長い登り。登りと下りを繰り返す。暑い。帽子、シャツ、ズボン、靴下、汗で濡れたザック、身に付けている全てのものから汗が流れ落ちる。ただただ汗を流し歩く。

 サワガニ山1612.3メートル。水も水筒に半分くらいになってしまった。まだまだ先は長いのだ、と分かっていても飲まずにいられない、暑い。今日2番目で最後の水場が豊富な水場でありますように、と祈りつつ水、水と歩きつづける。栂海山荘の水場と書いた標識がある、「北又の水」とも書いてある。5分ほど下ると雨樋に受けた細い、細い水が流れている、でもあってよかった。
 時間を掛けて3リットルの水を得る。この水場からが今日最後の登りの犬ケ岳である。急登である。

 水を補給して気持ちはハッピーになったが、ずしりと疲れた身体に水の重さが圧し掛かってきたように思われた。木の根、笹の根につかまり、杖にすがって漸く犬ケ岳に着く。少し下ると赤い屋根の栂海山荘が見えてきた。
 小屋から日本海が見えるか、と期待したが、あたりは真っ白な世界であった。

 朝日小屋0530~朝日岳0630~長栂山0755~黒岩平0940~黒岩山1045~サワガニ山1210~北又の水場(1305~1330)~犬ケ岳1410~栂海山荘1420


■8月19日 曇りのち晴れ
 とりあえず、第1関門の栂海山荘へ来ることが出来た。ゼノールチックを膝にもう何回塗りつけたであろうか、自分でも汗のにおいと、インドメタシンの臭いがゴチャマゼになって、余計暑い。果たして日本海の水は甘いかショッパイか、はたまた辿り着くことが出来るのだろうか

 小屋を出るのが一番最後になってしまった。あたりを見回し戸締りをして急坂を下りる。
水は1リットル強ある、まあ安心である。

 二日間の疲れが徐々に応えてきて、タダでさえ遅い歩みが牛歩も驚くほどの遅さになってしまいガスで展望は利かず暑さが余計感じられ、この上もなく暑い、水、水の繰り返しとなってしまった。

 菊石山1209.5メートル。続いては今日最後の大きな登り白鳥山である。登っては下り、下っては登る。キツイ。こののぼりが白鳥山か、いや違う今度こそと何度裏切られたことか、こういう優しい名前の山ほどキツクて、険しいに決まっている。夏蝉が耳元で烈しく鳴く、小虫の羽音が居るはずも無い人の声に聞こえる、幻覚だ、とうとう幻覚まで出てきてしまった。木の根に掴まり、笹の根に頼り、杖にすがって登る、暑い。息が切れる。

 白鳥山山頂には地元青海町の2階建ての白鳥小屋がある。地元の人がハイキングにきていた。水はまだ大丈夫だと思うが一応「シキ割り」の水場は水があるかどうか聞いてみる。「涸れている。でも、君に水をあげよう。」と言って1.5リットルの冷たい水をくれた。余程疲れたように見えたのだろうか、いやいやこれは人徳だ、いや山の実力の内だ、と内心勝手に想像して元気になる。お陰で暑くなって幻覚を見る頭を冷やすこともできた。

 白鳥山からはくだりに下る、地元サワガニ山岳会の手になるのだろう、急な所や要所要所にはトラロープが張ってあり、細かい心配りとそれを実行する態度に敬服する。

 やはりシキ割りの水場はポタポタ程度の水であった。長い長い下りとも登りともつかない道を下る。ようやく坂田峠。舗装道路が横切っていた。さ、日本海も目の前だ、どうやら行けそうだぞ、と元気を出す。水はたっぷりだ。しかし、路はどんどん登るではないか、標高600メートルを前後して下がらないばかりか、かえって上がっている。見通しがあまかったか、と必死で登りつづける。

 尻高山677メートル、二本松峠380メートル、最後の入道山380メートル。もう登る山は無い、しかしドンドン標高が上がってくる。416メートルになっているではないか、午後の1時を廻っている、木の間越しに日本海が見えるというけれど、全然見えない。それでも下りつづけ、とうとう波の音が聞こえてきた、また幻覚か、と思ったが間違いない、国道の轍の音、寄せては返す波の音、間違いない日本海だ。青い海原も見えてきた。「あ~、やったのだ。」
 国道に下り、振り返り、この三日間無事に歩かせてくれた山々に深く深く一礼してボクの縦走は終わった。

 栂海山荘0510~黄蓮の水場0630~菊石山0650~白鳥山(0915~0935)~シキ割りの水場1035~坂田峠1135~尻高山1225~日本海側栂海新道始点1420                           


                  
 この縦走に先立ち、水場の様子、コースの状況など数々のアドバイスを頂いた練馬山の会ヒロリン様には本当に感謝申し上げます。

 また、岳樺の声援がボクの背中を押してくれたと思う。皆が応援してくれている、と思うと苦しいながらもあと一歩、あと一歩と歩くことが出来た。と感謝しております。
(記 竜少年)

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