ロードセルを使った確保講習会

去る10月3日、労山千葉県連救助隊の主催で、ロードセルを使った確保技術の講習会が、湘南・鷹取山において開かれました。
参加者は千葉県連加盟の各会から計25名以上が参加。講師には全国連盟遭対委員会の入木田実文氏が来て下さり、実証結果に基づき、わかりやすい内容で説明してくれました。
その時に、計測されたデータを公開し、確保技術を考える上での材料にしてください。
【設定条件】
- 重りの荷重=80kg(砂の入った土のう数袋)
- 中間支点数=2個
確保者より5mの位置に1箇所。さらに2m延ばした位置(ロードセルセット位置)に1箇所。
- 墜落距離=4m(中間支点からロープが2m繰り出された地点から落下。)
- ロープの繰り出し距離=多くの場合、5+2+2=9m
- 使用ロープの状況=古く弾性の失われた状態だった。
【下表の説明】
- 確保器具:ATC、SMC、8環、シュテヒト環など参加者の持参した確保器具で実施した。
- 支点荷重:ロードセルを設置した最終(2個目)の中間支点にかかった衝撃荷重の数値。
- 流し量:墜落時にロープを流した距離(m)。しかし、必ずしも制動確保とは言えない部分あり。
- 落下距離:重りの墜落距離。ほとんどが最終中間支点から2m延ばしたところから落下したため、4.0mとなっている。
- 流し率:(流し量)/(落下距離)
- 墜落率:(落下距離)/(ロープの繰り出された距離)
1回目(ボディ確保)の結果
性別 | 確保器具 | 支点荷重 | 流し量 | 落下距離 | 流し率<0.5 | 墜落率 | 備考 |
kg | m | m | |||||
男 | ATC | 338 | 1.0 | 3.0 | 0.33 | 3/8.5 | |
女 | ATC | 360 | 3.0 | 4.0 | 0.75 | 4/9 | 流し過ぎ |
女 | ATC | 415 | 1.0 | 4.0 | 0.25 | 4/9 | |
女 | ATC | 451 | 1.0 | 4.0 | 0.25 | 4/9 | |
女 | ATC | 386 | 0.3 | 4.0 | 0.075 | 4/9 | |
男 | 8環 | 492 | 0.3 | 4.0 | 0.075 | 4/9 | |
女 | ATC | 321 | 1.3 | 4.0 | 0.325 | 4/9 | |
女 | ATC | 361 | 1.0 | 4.0 | 0.25 | 4/9 | |
男 | ATC | 392 | 1.3 | 4.0 | 0.325 | 4/9 | |
女 | ATC | 421 | 0.7 | 4.0 | 0.142 | 4/9 | |
男 | ATC | 269 | - | 4.0 | - | - | G.F(流し過ぎ) |
男 | ATC | 371 | 1.5 | 4.0 | 0.375 | 4/9 | |
女 | 8環 | 394 | 0.6 | 4.0 | 0.15 | 4/9 | |
男 | シュテヒト環 | 437 | 0.9 | 4.0 | 0.225 | 4/9 | |
男 | ATC | 470 | 0.6 | 4.0 | 0.15 | 4/9 | |
男 | ATC | 486 | - | 4.0 | - | 4/9 | ザイル切断 |
男 | ATC | 410 | 1.1 | 4.0 | 0.275 | 4/9 | |
女 | ATC | 365 | 0.8 | 4.0 | 0.2 | 4/9 | |
男 | ATC | 360 | 1.0 | 4.0 | 0.25 | 4/9 | |
男 | ATC | 428 | 0.9 | 4.0 | 0.225 | 4/9 | 岳樺クラブ |
男 | ATC | 470 | 0.8 | 4.0 | 0.2 | 4/9 | |
男 | ATC | 496 | 0.5 | 4.0 | 0.125 | 4/9 | 岳樺クラブ |
男 | ATC | 427 | 0.7 | 4.0 | 0.142 | 4/9 | 岳樺クラブ |
男 | SMC | 464 | 1.5 | 5.0 | 0.3 | 5/9.5 | |
男 | ATC | 407 | 1.3 | 5.0 | 0.26 | 5/9.5 | 岳樺クラブ |
男 | ATC | 474 | 0.7 | 4.0 | 0.142 | 4/9 | |
全員の平均値 | 416 | 1.0 | 4.04 | 0.25 | 0.45 | ||
男性の平均値 | 433 | 0.9 | 4.06 | 0.23 | 0.45 | ||
女性の平均値 | 386 | 1.1 | 4.00 | 0.27 | 0.44 |
第1回目の結果からわかったこと。
- 全員ボディビレイで挑戦。参加者はほとんどがATCを使用していた。制動確保を意識しすぎた参加者の中には、グランドフォールさせてしまった人もいた。
- また、主催団体の経費不足?で、実験で使用したロープは古いものだったため、18回目の衝撃でロープはものの見事に切断してしまった。
- 男性参加者は女性参加者に比べて、平均流し量が小さく、支点にかかる荷重は大きかった。これは男性の握力の方が女性のそれよりも大きいため、流し量は小さくなる反面、支点にかかる衝撃荷重が大きくなったためと考えられる。
2回目(支点確保&ボディ確保)の結果
性別 | 確保器具 | 支点荷重 | 流し量 | 落下距離 | 流し率<0.5 | 墜落率 | 備考 |
kg | m | m | |||||
男 | 8環 | 572 | - | 4.0 | - | 4/9 | 支点確保 |
男 | ATC | 343 | 2.8 | 4.0 | 0.70 | 4/9 | 〃 |
女 | ATC | 546 | 1.3 | 4.0 | 0.33 | 4/9 | 〃 |
男 | 8環 | 514 | 0.4 | 4.0 | 0.10 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 453 | 1.6 | 4.0 | 0.40 | 4/9 | 〃 |
女 | ATC | 503 | 2.0 | 4.0 | 0.50 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 471 | 1.9 | 4.0 | 0.48 | 4/9 | 〃 |
女 | ATC | 463 | 1.9 | 4.0 | 0.48 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 543 | 1.1 | 4.0 | 0.28 | 4/9 | 〃 |
男 | 8環 | 548 | 1.8 | 4.0 | 0.45 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 456 | 1.7 | 4.0 | 0.43 | 4/9 | ボディ確保 |
女 | ATC | 386 | 1.9 | 4.0 | 0.48 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 452 | 1.1 | 4.0 | 0.48 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 490 | 0.9 | 4.0 | 0.23 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 493 | 0.6 | 4.0 | 0.15 | 4/9 | 〃 |
男 | ATC | 437 | 1.2 | 4.0 | 0.30 | 4/9 | 〃 |
全員の平均値 | 479 | 1.5 | 4.0 | 0.37 | 0.44 | ||
男性の平均値 | 481 | 1.4 | 4.0 | 0.34 | 0.44 | ||
女性の平均値 | 475 | 1.8 | 4.0 | 0.44 | 0.44 | ||
支点確保の平均値 | 496 | 1.6 | 4.0 | 0.41 | 0.44 | 支点確保 | |
ボディ確保の平均値 | 452 | 1.2 | 4.0 | 0.31 | 0.44 | ボディ確保 |
第2回目の結果からわかったこと。
- 支点確保よりもボディ確保の方が、衝撃荷重の大きさは小さい結果となった。
- 2回目も女性参加者の方がロープの制動距離が長くなる結果となった。
- 第1回目の中盤でロープが切断された後にセットされたロープも古く、衝撃荷重値は高めに出た模様である。
- ロープの流れは、ボディ確保の方が少なかった。流れが少ないにもかかわらず、衝撃荷重が支点確保時に比べて小さかったのは、ビレイヤーの身体全体での衝撃吸収があったのかも知れない。
- 重りの落下の衝撃が想像以上に大きく、ボディ確保者はセルフビレイ長めの場合、壁に叩きつけられてしまった。
【「生と死の分岐点」との整合性について】
「生と死の分岐点」(P.シューベルト著 山と渓谷社)のP168に「ハーケンなどの確保支点にかかる負荷の大きさ」に関するコラム記事が掲載されている。
それによると、体重80kgの場合、中間支点にかかる負荷のおよその値は、中間支点上1.7mで墜落した場合の負荷として6.0kN(612kgf)の数値が示されている。ただし記事には中間支点の数が明示されていないが、中間支点はおそらく1個であると思われる。
今回(中間支点数:2)の平均値が410~480kgであったことから考えて、記事と今回の実験結果との間には整合がとれているように思われる。
また、同書P181にハーケンの負荷実験の結果が記載されているが、それによると多くのハーケンが3.5kN(367kgf)~5.2kN(530kgf)の間で抜けていることがわかる。
つまり、墜落により410~480kgの衝撃荷重が最後の中間支点にかかったとき、多くの場合ハーケンは抜ける可能性があるということだ。
今回の実験には使い古しのメンテナンスされていないロープを使用した。その結果、ロープの伸びはほとんど期待できない状況であり、新品か又は使用回数の少ないメンテナンスの行き届いたロープを使えば、衝撃荷重数値はもっと低減していたものと思われる。
それでも、確保者は400kg以下程度に衝撃荷重を抑えないかぎり、中間支点でハーケンが脱け落ちる可能性を抱えたまま確保せざるを得ないことになる。
【カラビナの破断】
最後におこなったカラビナの破断実験も衝撃的だった。カラビナのゲートが開いた状態になるケースは少なくないそうである。支点に設置したカラビナが強い力を受けて岩壁にぶつかった時などに瞬間的に開くことがあるそうだ。
ゲートが開いた状態で不幸にして墜落した場合、7kN程度の荷重で破断する可能性がある。7kNといえば体重80kg程度のクライマーが3~4m程度の落下距離で現出する可能性のある荷重である。
記載者:Nob