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岳樺クラブの夏山 2006 - 前穂・北尾根

北尾根は僕にとっては、10数年ぶりになろうか。その時は、9ミリ45mのロープを1本、3人で登った。前穂の頂上に着いたのは確か夕方の5時頃であったか。

吊尾根でのビバークが懐かしく思い出される。あれから時が経った。ますます涸沢までの道のりが遠くなる。果たして涸沢まで行き着くことが出来るのだろうか。北尾根登攀終了後は涸沢まで、いや奥穂小屋までたどり着けるのかどうか。北尾根の登攀記憶も忘却の彼方。



天気予報は曇り、雨模様とあったが青い空が広がって久しぶりの上高地、またまた綺麗になった上高地から涸沢へ。Nobさん、ma3nobuさんが荷物を分け合ってくれて、何かと負荷を軽減してくれる。もっと背負わなければイカンナー、と思いつつ、甘える。

涸沢はまだまだ雪渓が多く残り、今年の降雪が多かったことを物語っている。BCを設営してホットしたのもつかの間、テントに大粒の雨が落ちてきた。精一杯がんばったせいと夜行バスの疲れでよく眠れなかった。

5:00 涸沢ベースを出発。お花畑の中を登ってV・VIのコルに着く(6:30)。先行者も後続者も誰もいない。北尾根も寂れ行くルートの一つなのだろうか。

6:51 登攀用具を身につけ、V峰を登る。踏み跡に迷うようなところも無くピークに達する。奥又白の池が緑色の宝石のように見える。

今にもIV峰がガラガラと音を立てて崩れ行きそうな山容で何処にルートがあるのだろうか、と少し緊張する。10年前もIII峰の登りよりIV峰の登りに神経を使ったことを思い出す。


トップをNobさんに代わってもらう。涸沢側を巻いていくと、唯一赤ペンキの目印が奥又白側へと示している。

振り返れば、槍の穂先が同じくらいの高さに見える。回り込んで登ると懸垂支点、ハーケンが打ってあるのが見えるが、そのままノーザイルで登れる。

ホールド、スタンスが豊富ではあるが、全てチェックを入れてからでないと安心できない。

頭上には大きく張り出した岩があり、そこを右から回り込んでいくとIV峰のピークにでる。ピークから岩場を少しくだると、III・IVのコルには歩いて降りられる。

オーダーを竜少年、ヨーコ組とNob,ma3nobu組の2組を作る。先行は竜少年。

1ピッチ目

III峰の赤茶けた岩肌まで少し登って、そこが開始点。(8:50)

ピッチ数などは、ロープの流れ、ランナー支点、ビレイポイントの状況そして安全度など計算しながらピッチを切っているので、ガイドブックなどとは違うかもしれない。

スタートして、左に少し回りこむと小さいながら岩のテラスがある。その間、ランナーは一箇所。短いとは思ったが、そこから上も左上気味なので、ピッチを切る。約10m。

岩のテラスには、ハーケンが3箇所打ってあった。(Nobさんはここでピッチを切らずにそのまま直上していった。)


2ピッチ目
その岩のテラスから思い切り足を上げてクラックにホールドを決めて乗り込む。ここは、ヨーコさん、少し不利だなー、と思いつつ。右は凹角状となっている。

正規には、そこをのぼるのか?適当な間隔で中間支点がある。横に広がった廊下状テラスに4箇所のハーケン。

ここも短めであるが、ピッチを切る。約20m。

Nobさんがテラスの横の岩塔で1ピッチ目のビレイ解除をしている。


3ピッチ目
真中にチョックストーンを抱えた大きなチムニー。登攀前に涸沢常駐の警備隊にNobさんが、チヨックストーンは登らない、左のフェースを登ること、と聞いてきている。

チョックストーンチムニーは見ただけでも、イヤらしい。両手を広げたくらいのチムニーなので、すぐに分かる。

左のフェース状は浅い縦クラックが入り、適当にランナーもあり、岩も堅く快適に登れる。

こけ色をした大テラスをトコトコと歩いて、ビレイ点。ビレイ点は左側の側壁に3,4箇所、凹角の入口に3箇所のハーケンがある。左側壁でとってビレイ解除。約30m。すぐにma3nobuさんが追いついてくる。

ヨーコさんには、凹角の入り口でビレイをしてもらう。

4ピッチ目
凹角も適当な間隔でハーケンもあり、岩も堅く、快適である。終了点は岩塔に巻いてビレイ解除。約30m。Nobさんが追い抜いて行って、「ビレイするいい岩塔がないなあ。」と探しながら歩いて行く。

5ピッチ目
ほぼ登攀は終了したのではないか、と思いつつ、ガラガラの山道をコンテで歩く。正面にはかぶり気味の岩が立っている。竜少年がその岩の基部まで少し登ると、懸垂支点と思われる支点が涸沢側に打ってあったのでとり合えずランナーをとる。その先には、一切支点はない。その間、ma3nobuさんが涸沢側を歩いて回り込めないか偵察。「行っていけないことはないが、アブナイ。」では、登るしかないか。

少しかぶっているので、ハーケンやボルトを探したが、全く無かった。先ほどとったランナーは、涸沢側で5mくらい右に寄っているので緊張する。かぶったところに120cmのスリングを3回ほど巻きつけて、ビレイ点とする。「これしかないんだから、頼むゼ。」と言った気分。

一手緊張して登ると、岩は堅く、ホールド、スタンスとも豊富で更に2、3手登ると、またしても懸垂支点と思われる支点があった。そこから右上してすぐに岩塔でビレイ解除。

ma3nobuさんもすぐに登ってくる。「へぇー、いいとこでビレイしてんなー。」「当然でしょ、トップなんだから。」などと冗談をかわしつつ、ma3nobuさんも少し上の岩塔で240cmスリングでビレイ解除。

やがて、ヨーコさんの赤いヘルメットがあらわれる。約30m。5ピッチであった。あっけないような、もう少し岩を登りたいような、そんな気分で登攀を終了した。(ガイドブックでは2ピッチないしは3ピッチ)

III峰の頂上はどこだかよく分からないうちに、ガラガラの岩道を歩いてII峰の懸垂地点に近づく。Nobさん、ma3nobuさんが先行する。

懸垂を終われば前穂の頂上だ。懸垂は少し楽しまなくちゃ、などと暢気に構えている。涸沢側に懸垂支点が2箇所あり、懸垂を終わるとI・II峰のコルに出るようである。しかし、この涸沢側の懸垂点は浮石という大きな危険を孕んでいる。浮石に注意しながらの懸垂はおかしい、変だ、と思いつつ誘われるように懸垂下降してしまった。


2回の懸垂の後、I・II峰間のコルに登り返すラインも浮石が多く、ヨーコさんが落石をヘルメットで受けてしまい、そのとき咄嗟に手で頭をかばったので、右手薬指に裂傷を負ってしまった。すぐに前穂山頂で手当てをしたが、大事に至らず、バンソウ膏を張っただけで事なきを得た。不幸中の幸いであった。正規の懸垂支点はII峰のI峰寄り尾根上にある。約5mだ。

登攀終了後、長いながい吊尾根、白出のコル(15:40)を経て、長いながいザイテンの下りを下って、涸沢のベースに着いたのは、午後6時少し前であった。

※掲載写真は、文章の場面(登攀ピッチ)と同一ではありません。

Nobさん、ma3nobuさんは元気に東稜へ出発。僕とヨーコさんはテント撤収とトカゲ。今日も涸沢はいい天気だ。約束の12時少し前に「あ・らー・いさーん!」というma3nobuさんの声が聞こえる。涸沢小屋の直ぐ前だ。風に乗ってここのテント場まで声がよく通る。北穂東稜は涸沢から往復6時間。

午後1時過ぎ、荷物をまとめて下山。北条・新村ルートを今日登ったMiya、ヒロリン組と徳沢で合流する約束になっている。会えれば美味いビールが飲めるぞ。

途中、本谷橋の少し手前で夕立に遭う。ひたすら徳沢に向けて下った。徳沢には午後6時少し前だった。
テントを張り、テント場でMiyaさん達を探すがまだ未着のようだ。目にとまりやすい場所で夕餉の支度をしていると、元気な姿のMiya、ヒロリンチームが現れた。よかった。無事に会えた。6時半ころだった。

何とか涸沢にも着けたし、北尾根から吊尾根、ザイテン、涸沢と歩くことが出来た。北尾根の登攀そのものは難しいところはないのだが、10数年の歳月は全てを忘れるには十分過ぎるほどであり、初めて登るところのようだった。しかし、まあ、63歳にして北尾根、吊尾根、涸沢と歩いたというか歩かされたというか、仲間に助けられて登れたようなものだ。

しかし、まだ自分なりにトレーニングをすればこれからも登れるかもしれない、という山行であった。

登攀終了まじかの懸垂支点には、惑わされた。というより、何の疑いも無く2回の懸垂に入ってしまったのは、反省してもしきれない。

ヨーコさんには痛い思いをさせてしまってリーダーとしてまた代表として申し訳ない気持ちだ。しかし、大事が小事。反省すべきは反省し明日につなげたい。大事が小事。本当にみんな無事で良かった。

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