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北アルプス 前穂高岳・北尾根

― 風雨のツェルトビバークと人との出会いが印象に残る ―

 8月30日PM9:00、東上線ふじみ野駅集合。パートナーは岳樺クラブのお友達のチカさん。チカさんの車で川越から関越道に乗り、上信越道から一路、松本に向う。

 上信越道から穂高に行くのは初めて、「今何処を走っているの」そんな不安の中、長野道に入る。松本から沢渡に到着したのが夜中の1:30、思ったより早く到着した。沢渡の駐車場に車をとめ、テントで仮眠をとる。



■ 8月31日(晴れ)

 上高地8:05~横尾10:50~涸沢13:45~北尾根5.6のコル16:05

 沢渡からバスに乗り上高地に向う。6月、奥穂高に登った時は好天に恵まれた。今回も天気は良さそうだが、接近している台風と夕立が気になる中、上高地を出発する。

 チカさんとは去年の9月に甲斐駒の赤石沢奥壁を登った以来、ほぼ1年ぶり2回目の山行となった。今日は涸沢から5.6のコルでツエルト泊りのため、登攀具・ツエルト・コンロ・食料等とザックが重い。

 青空に立つ明神2263峰が見え始めると、荷も軽く感じる気がした。チカさんは涸沢が初めてと、涸沢デビューを楽しみにしているようだ。徳沢を過ぎ前穂の北尾根が現れた。チカさんに北尾根や東壁の説明をして、今日の目的地5.6のコルを見ると、あの裏の涸沢から登るのかと思うと、計画した自分ながら気が重くなり、コルの方を見ない事にして歩いた。

涸沢にて 横尾から屏風を見ながら本谷橋に着くと、気温も上がり暑い中たくさんの人が休憩をとっていた。私達もここで休憩をとることした。

 北尾根の屏風のコルが見えると、涸沢も近づいてきた。実をつけたナナカマドにかこまれた道を登り涸沢ヒュッテに到着。あとは5・6のコルまでの登りだけなので、ヒュッテのテラスで時間も気にしないで、ゆっくり休憩となったが、まだビールを飲むわけにはいかない。まわりの人達は飲んで楽しそう。ここで、お互いに水3リットル補給と缶ビール2本買ってザックに詰め込むと、ぐっと重くなった。

 涸沢デビューのチカさんの記念撮影をして5.6のコルに出発。涸沢ノ池のわきを通り雪渓を登ると、先にザックなしの3人パーティーがいた。5.6のコルへのガレ場登りにさしかかると、3人パーティーが下りてきた。挨拶をして尋ねてみると、神奈川から来た男性一人女性二人で、明日、北尾根を登るそうだ。「明日、お会いしましょう」と声をかけ、ガレ場から急登の踏み後登りとなった。

 水とビールが重いのかペースが上がらず休憩を数回とって5.6のコルに到着。コルには単独の人のツェルトが一張あった。単独の方はF県から来た60代ぐらいの男性であった。まずはビールで乾杯して、顔が赤くなったころツエルトを張る。

 明日3時起きのため19時に就寝する。・ ・ ・22時ごろ目が覚めると、コルを間欠的に吹きぬける突風と雨が降りはじめた。台風の影響らしい。ツエルトの張り綱が心配だが、外に出るとツエルトの底から飛ばされそうなので、中でじっと我慢をして二人とも眠れぬ夜となってしまった。


■9月1日 (晴れ)

 北尾根5.6のコル5:35~前穂高岳9:00-9:55~岳沢ヒュッテ11:50~上高地14:10

 3時に起床。外に出ると雨があがり満点の星空であったが、また時おり突風が吹きぬける。この風が続けば北尾根は断念しなければならない。とにかく朝食をとり出発の準備をする。

 5時近くになると、風が止った。これなら行けると外に出る。ハーネスを着け準備をしていると、涸沢から5人パーティーが上がってきた。先頭を見ると、私の大先輩のガイドのKさんであった。20年ぶりの再会となりコルが賑やかになった。同じ眠れぬ夜を過ごした単独の方の顔を見た瞬間、「いっしょに登りませんか」と、なぜか言ってしまった。単独の方は「お願いします」と言われ、三人で登る事になった。

 Kさんに「先に行かせてください」とお断りして出発する。5峰の急な登りに昨晩の影響かペースが上がらず、後続するKさんにあっさり「先に行ってください」と言うと、Kさんが「荷が重いからね」と慰め?の声をかけられる。

 5峰のピークに立つと風もなくなり暑くなってきた。長袖を脱ぎTシャツになる。天気は快晴となり昨晩の風雨が嘘のようだ。4峰までの登りは、もろい岩の部分もあるが、さほど悪いところもなく、急な岩尾根歩きのような感じだ。4峰のピークから懐かしい右岩稜とDフェースが見えた。3.4のコルの下りは、私のいつもの悪い癖が出てしまい奥又白側を巻こうと斜面を下りかけたが、これは違うと感じて岩稜に戻ると涸沢側にしっかりと踏み後があった(ルート図には奥又白側は悪いとあった)。

 3.4のコルに下りてザイルを出し登攀の準備をする。9mm50Mザイルを持ってきたので、私がトップ、中間に単独の方、ラストにチカさんと、1本のザイルで登る事にして、二人の登る間隔とコールについて打合せをする。1P目、奥又白側にトラバースすると上にハーケンが見えた。銀色のピンやカムなどを思うと、この古いハーケンに嬉しくなってきた。直上して「ザイル10M」のコールにビレーポイントの錆びた2本のハーケンは、嬉しいわりには使う気になれず、大きな岩角にシュリンゲを巻き二人を確保する。二人とも快調に登ってきた。

 2P目、3Mほど左にトラバースして直上すると3峰チムニー下の広いテラスに出た。チムニー右隣の凹角にビレー用のハーケンがあったが、ここのほうが広いので、やはり大きな岩角にシュリンゲを巻きビレーする。単独の方が上がって来て、ご自分のシュリンゲを岩角に巻きセルフをとる。すぐにチカさんのたるんだザイルをグリップビレーして巻き上げる。チカさんも上がってきた。

前穂頂上に立つチカさん 3P目、ルートは凹角の中に入り中はボロボロだ、確かここは岩が詰まっていた記憶がある。残置ハーケンがチョックストーンまでなく、チョックストーン下で岩角にシュリンゲを巻きザイルを通す。かぶりぎみのチョックストーンの乗っ越しは、アルパイン用シューズを履いていたので楽に越え、さら15Mほど登りテラスに出た。チカさんは登山靴、単独の方は軽登山靴と、重荷に少しきついかもしれない。

 二人に「チョックストーンの乗っ越し気をつけて」と声をかける。単独の方はチョックストーンで動きが止まったが、上がってきた。単独の方にザイルがつながっているチカさんが「ザイル張ってください」と、小テラスにいる単独の方が、すぐに肩がらみでチカさんを確保(この方は若い頃、かなりやっていたと思われた)。私はザイルをしっかり張り、チカさんもチョックストーンを越えてきた。

 やがて二人が私の所まで登ってくると3峰の核心が終わった。4峰のピークを見ると、昨日会った神奈川から来たパーティーがいた。見ると、私と同じように奥又白側から巻いて3.4のコルに下ろうとしている。「涸沢側を巻いてくださーい」と叫ぶと「ありがとうございます」と返事が返ってきた。2峰は涸沢側を巻きぎみに登ると、2峰の下りの残置シュリンゲの場所に出てしまった。

 ここは懸垂で下り、本峰へ最後の登りはチカさんに先頭を譲り、9時、前穂山頂に立った。チカさんは山頂に来たのは初めてと、嬉しそうだ。

 即席の三人パーティーだか、快調に登ることができた。山頂で初めて自己紹介をして、単独の方のお名前を知り、これから明神5峰まで行かれるそうだ。お別れの挨拶をして、私達二人は重太郎新道を下りて行く。明神の稜線を歩く単独の方の姿が遠くに見え、素敵に思えた。
 
 なんと言っても5.6のコルの、風雨のツェルトビバークが印象に残り、人との出会いの北尾根となった。
来年、奥又白池にテントを張り4峰正面が登れたら。北尾根は雪の季節に・・・無理だろうか。
(記 Miya)                              

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