奥秩父 瑞牆山・十一面岩 春一番ルート(敗退)
― 無念の時間切れ敗退 残念! ―
瑞牆(みずがき)山は私が20年前に本チャンをやっていた頃にすでに登られていたが、フリークライミングの技術を駆使するなにやら難しそうなルートばかりであったので敬遠していたものである。
ところが今回の春一番はルート図で見る限りはIV+/A1となっており、技術的には問題のない快適なロングルートであろうと気軽な気分で取り付くことにする。NPセットの練習にもなるし、あこがれのベルジュエール(4ピッチまでは同一ルートであるが)の核心部の偵察も兼ねての山行であった。
深夜に麓の駐車場に着いてテントを張る。他に車が1台駐車していたが、クライマーではなく、瑞牆山は我々だけの貸しきりのようである。
久しぶりに見る満天の星空は美しかったが、かなりの冷え込みで熟睡できずに朝を迎える。先行パーティーがいる懸念もないので明るくなってから出発する。
このあたり一帯は植樹祭による整備で大幅に変わったようであるが、初めて来た私はインターネットでアプローチの情報を仕入れてきたクニさんの後をついていくだけである。だんだんと奇怪な岩峰が迫ってくるが、春一番の取り付きの目印となる燕返しのハングは一向に見えてこない。どうも登り過ぎたのではないかと左の方に行ってみると、なんとそこにはベルジュエール核心部の大フレークが目の前にあるではないか。あわてて下へ戻ることにする。
途中にケルンがあって春一番の取り付きへの踏み跡が分岐していたが、さきほどは見落として登り過ぎてしまったようである。燕返しのハングはすぐにわかったが、春一番の取り付きを捜してウロウロする。濡れている急傾斜の浅いクラックに残置ハーケンがあるが、いかにも難しそうでそれらしくない。カンテがそれらしく見えるが、上部がどうなっているかわからない。
まあここがルートだろうと取り付くことになる。時間は9時と随分遅くなってしまった。
木をオポジションに利用してカンテに移り、回りこんだところでNPをセットして一息いれる。 しばらく登るとピン連打となる。このままフリーで登りつづけると11bだが、もちろん人工で登る。途中、小さいハングを越えるが快適なアブミの懸け替えである。
40メートルで一度ピッチを切り、クニさんを迎える。確保しながら景色を眺めると新雪をかぶった南アルプスや八ヶ岳が見渡せて爽快な気分である。
2Pはアブミトラバース後、人工で直上するがクニさんに先行してもらう。なんの疑いもなく人工で行ったが、フリーで行っても5.9であることは帰ってからわかった。
3Pはいきなり支点の遠い垂壁である。支点までたどりつくと思わず、支点にシュリンゲをかけて乗ってしまった。そこから先は一手厳しいムーブの後、傾斜が落ちて木登りを経て滑り台に移る。5.9程度のスラブであるが、支点が遠い上、背中のザックと前にぶらさがっているフレンズ等の重みでなかなか厳しいピッチとなった。
ザイルが50メートルいっぱいに近づいたため浅いクラックにつながるルートを離れて残置支点のあるところへトラバースする。後続するクニさんには、浅いクラックをそのまま直上してもらおうかとも思ったが、フレンズは私がほとんど持っていたため私のいる確保地点までトラバースしてもらうことにする。
結局、次ぎのピッチ(4P目)も私がリードすることになって、浅いクラックを人工で登りだすが、すぐにピンがなくなってカムによる人工となる。カムの扱いに慣れていない私は外側に開き気味のクラックではなかなかうまくカムをセットできない。
奥の方ではフレンズの大きさがあっても、外側ではクラックの幅の方が大きくなってしまい十分効いていないようである。カムが抜けて墜落したという他パーティーの山行記録もあったので、アブミには静かに体重をかけるように気をつける。その上ではさらにクラックは浅くなってフレンズはますます効かない気がしたので、ナッツにすると、こんどは効いているようであった。
浅いクラックではフレンズよりもナッツの方が有効であることがわかった。
カムを3つセットして、上のボルトに手がとどいたときはほっとした。後は単調なアブミの懸け替えでこのピッチを終了したが、帰ってから記録を読むと苦労してカムをセットして人工で登ったコーナークラックはレイバックで登れるそうである。最初から人工と決めつけてしまったのは、まだまだ判断力が甘いといわざるをえない。
クニさんを迎えたときは、すでに2時半を回っており、ルートの半分も終わっていないことを考えると、残念だが敗退せざるをえないという結論になった。
丁度、朝、間違って登り過ぎたところに来ており下降の心配もないので、眼前のベルジュエールの核心部、大フレークを観察する。フォローならともかくカムをセットしながら、これだけの大フレークを突破するには私はまだ力不足であることを痛感した。
崩れやすい急傾斜の踏み跡を下りながら何度もみずがきの岩壁を仰ぎ見る。凄まじいクラックラインが何本も続いている。私でもこんなところを登れる日がいつかくるのであろうか。駐車場に戻ったときは日が落ちる直前であったが、下山中に暗くなっていたら、相当難儀したであろうからラッキーであった。途中敗退の時間的な判断も正解であった。
瑞牆山はすっきりとした快適な岩場でフェース、クラックと変化に富み、残置が少なくルートファインディング能力が必要であるなど素晴らしいところである。
おまけに、あれだけ広大なエリアでありながら人気がないというのもうれしいことである。今度来るときは、日照時間の長い時期に早い時間に取り付いて余裕をもって登りたい。
(記 vibram)
【コースタイム】
駐車場 6:00
取付き 9:00(途中1時間ほどロスあり)
4P終了点 14:45~15:00
駐車場 17:00頃