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北アルプス 錫杖岳・中央稜P2右岩壁左ルート

 私もクニさんも錫杖は初めてなので、今回は前衛フェースの偵察も兼ねて、やさしそうな、中央稜P2の右岩壁左ルートを登ることにした。
 このルートそのものは難しくない。しかしP2のピークまでの継続登攀と下降はなかなかのもので、夜の8時にテントに戻るまで十分楽しませてもらった。

【25000地図】笠ヶ岳
【参考】 白山書房 日本の岩場〔下〕

【天候、時間】
10月21日 晴れ時々曇り
  5時10分  韮崎出発
  7時40分  新穂高温泉駐車
  9時40分  錫杖沢出合いテント場
 10時40分  前衛フェース基部
 11時30分  中央稜P2右岩壁左ルート取付き
 16時      P2ピーク
 17時30分  懸垂にて右俣沢に下降 20時テント場戻り 

10月22日 快晴
  7時15分  下山
  8時40分  駐車場
 11時30分  韮崎戻り



【記録】
錫杖岳前衛フェース全景 土曜日は雨もあがり早朝韮崎を出発した。2時間10分で新穂高温泉に到着。
25kgの重荷に喘ぎながら登っていく。クリヤ谷を埋め尽す素晴らしい紅葉である。
2時間で錫杖沢の出会いについた。テントを設営していると、ガスの切れ間に前衛フェースが現れてきた。垂直にそそり立つ壮絶な岩壁である。

 クライミングギアでいっぱいのザックは重いが、急登1時間弱で前衛フェース岩壁基部につく。左の北沢に出てここをあがると、正面が中央稜のP2の右岩壁である。 
北沢の右が有名な前衛フェースの左方カンテ。とてもこんなとこ登れないなーと納得。しかし前衛フェースの3ルンゼは、次回は登れそうな気がした。

 11時30分に1ピッチめの途中から杉がリードで行く。今朝まで残った雨の影響で岩がまだ濡れている。シャワーを浴びながらルンゼを登り、2ピッチ目の終了点下の立ち木まで一気に上がる。ここから核心の3ピッチ目。リードはクニさんに譲る。

 資料には<チョックストーンを右からまいて>とあり、右上にボルトがあり。クニさんはランナウトしながらも15mほど上がる。その上3mに残置ハーケンがあるが、ここで選手交代。杉が何とか突破して、さらにトラバース気味に垂直フェースを3m上がる。なんとこの上に全く残置がない。キャメロットをセットするクラックもない。

 撤退を決めクライムダウンして、残置ハーケンに残ったカラビナで支点に左のルンゼに降ろしてもらい、次にクニさんがボルトを支点にしてルンゼに降りる。
あのハーケンのカラビナは誰かが敗退して下降したしるしであろう、と納得した。

 敗退かと思ったら、なんとルンゼのチョックストーンの裏側が10mほどのトンネル状(垂直チムニ-)になっていて、ここを抜けられそうである。
杉リードで突破したら、確保支点がありこっちが正解であった。資料は<チョックストーンのチムニ-を通過してから右に巻く>の間違いであろう。

 4ピッチ目はクニさんリードで右に上がり草付きで休憩。
 5ピッチ目も立ち木に支点を取りながら、2時30分P2とP3のコルに達する。
 資料には<下降はP2を巻いてP1とのコルに出る>とあるが巻きルートはない。右斜め上にハーケンがあるので、巻き気味にP2を登ることにした。

 ここからは、中央稜P2の南東フェースとでもいうべき継続登攀である。杉リードで1ピッチ目。2ピッチめも杉リード。最後の3mの垂壁をクリアーしてP2のピークに抜けた。最後の垂壁は残置が無く、キャメロットを2つセットして登ったが、今日の登攀で一番難しい場所だった。(フリーで10a,bくらいか)

 午後4時にP2のピークに立ち靴を履きかえる。ここから時間との勝負である。
 P2とP1のコルには20mの懸垂で容易に下降。
 資料には<下降はP1上部から裏の右俣沢を下る>とあるが、時間短縮のためにP1へ登らずに右斜め下にルートをとり、立ち木支点で25m斜面の懸垂3~4回で草付きのバンドに出た。ここをさらに右にトラバースして、切り立った岩壁の上に出た。

 ガスで下が見えないので、突っ込む訳には行かない。時間は午後5時をまわり、日没が近い。もしこの岩壁が50m以上の高さがあれば、コルまで登り返して、反対側に懸垂下降するしかないかなー。と話していたら霧が晴れてきた。

 薄暗がりの中、懸垂ロープを落としてみた。杉のヘッドランプが効力を発揮する。長谷川CUPに使った単3を4本の強力なライトであり、岩壁の下にロープが何とか届いているのが確認できた。杉が最初に下降する。途中から下30mは空中懸垂。

 途中でロープが絡んでいるので、空中懸垂の姿勢で片手でロープを手繰って下る。そして、ロープ一杯45mの下降で基部に降り立った。

 夏以降、毎週平日の夜インドアで鍛えてきたので、筋持久力は自信があり、30mの空中懸垂も恐怖心はなかった。午後5時30分、日没後の暗闇をクニさんも下降終了。そして次の試練。今度はロープが引けない。残置のカラビナを使ったにも関わらずである。そこで沢の上部に上がり、荷重を方向変換して、二人で引いて回収可能だった。右俣沢の下降は初なのでロープがなかったらビバークだった。

 二人でほっと安心して小休止。これでなんとかなった。
 杉の強力なヘッドライトは暗闇の沢の下降に本当に役立に立った。次なる試練は滝である。右の立ち木に支点をとり、捨てビナを使って、杉が下降する。30m先まで届く光のおかげで、どんどん下っていける。

 そして、北沢出会いの岩舎に焚き火している二人のクライマーと出会った。今日我々がP2を登っている時に、下でコールが聞こえた人達である。この日に出会ったのは、この二人だけ。静かな錫杖だった。
 最後の試練は藪漕ぎである。下降不可能な滝に出たので、左側に藪漕ぎして踏み跡を見つけた。そして午後8時にテントに帰還。

 沢で冷やしておいたカンビールをプシューとあけ、がっしりと握手して記念撮影。クニさんが用意したガスランタンの明かりで夕食、ウイスキーを飲んで厳しかった
一日を振りかえり、語り合う。空には満天の星、誰もいない静かな夜であった。

 22日は6時前に目覚めた。今日は快晴である。紅葉の森からそびえたつ錫杖の岩壁が、上のほうから朝日に輝き素晴らしい光景である。7時15分下山開始。登ってくる多くのクライマーとすれ違いながら8時40分駐車場戻り。
 さっそく河原の無料の露天風呂に飛び込み、カンビールで乾杯。午前中の空いた道路をとばして、11時30分に韮崎に戻った。



【感想】
 今回の錫杖はクライミングというよりも、バリエーションの度合いが強い。
資料もあんまり当てにならず、残置支点も少なくて信用できない初めての山域で、いかにして自分達の判断でルートを選んで、無事に帰ってくるかという、山の総合力を試された登攀であった。次回の錫杖は麓に泊まり、早出の日帰りで行ってみたい。 
今回のサーベイ山行で様子がわかっているから、心理的なプレッシャーが減った分、クライミングを楽しめそうである。
(杉 岳樺クラブ@韮崎支店) 

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