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2人合わせて110歳のヨセミテ紀行


■あまり驚かなかった岩壁

ヨセミテの岩壁は1、000mを超えるものがあり、そのスケールに驚くべきなのですが、ビッグウオールを登るわけでもないので、あまり驚きませんでした。

初めて、黒部上の廊下に入った時の方が、感激は大きかったようです。

その後、ヨーロッパアルプスの壁やアフリカ大地峡帯を構成するシナイ半島の岩壁を見物しているからかもしれません。

もちろん、大岩壁、巨木、草原、お花畑、マーセード川で構成されたヨセミテの自然は第一級の作品ですから、それだけでもそこを訪れる価値はあります。

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■目から鱗の勝手流クライミング

あっと、驚いたのは、クライミングの流儀です。説明困難なので以下にクライマー間の会話を紹介します。

★チャーチボールにて
息子、「パパ、行くよ」
父、 「アイヨ!、おい、そっちルートじゃないよ!」
祖母、「写真撮るから、こっち向いて」

★スワンスラブにて(その1)
女の子、「こんなとこ登れるのかしら怖いわ、ねーキスして」
女の子、「きゃー怖いわ、降ろして、もう一度キスして」
女の子、「やっぱり登れないわ、もう一度キスして」
以下この繰り返し。このカップル、クライミングの為抱きあっているのか、抱きあうためクライミングしているのか?

★スワンスラブにて(その2)
お腹のでた年増のオネーサン、「ギャハー、落ちる!」
お腹のでたオジサン、「ロープあるから大丈夫>
ギャラリーのお腹のでた年増のオネーサン、「ガンバ!アハハー!」
この中年グループの賑やかなこと、見事です。

★スワンスラブにて(その3)
真面目リーダー、「オオッ!、難しい!、落ちるかも!」
ビレイヤー、「まったく無視しておしゃべり」

★ボルダーにて
筋肉マンのボルダラー、「ギャー、このハング登れない」
某岳樺クライマー、「なんじゃこれ!簡単やないか!」
筋肉マンのボルダラー、「ギャー、お見事」
この筋肉マンのボルダラー、とうとう登れないので、最後は逆上がりをやって登りました。足技が皆無なのです。

そこにやってきた筋肉マンのボルダラーの恋人、「ここにいたの、探したわよ!、抱いて!!」
きつく抱きあった二人は石のように動かず。私はアホらしくなってそこを去りました。

★マニュアルパイルバットレスにて
真面目ビレーヤー、「おい!最初のフレンズはずれたよ!」
不真面目リーダー、「いやー、おれのフレンズよくはずれんやがんのよ!ガハハ!」


少しは雰囲気が理解頂けたでしょうか?真面目、不真面目、その幅の広いこと!、でも皆クライミングを自分流儀で楽しんでいます。

エジプトから帰って15年、海外と関係があった仕事を離れて5年、すっかりこの<人生を楽しむ感覚>を忘れていました。まず、自分が楽しいこと、すべてはここから始まるのです。

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■まず体力そしてプロテクションの設計

たまに、技のある人もいるのですが、まーだいたい技なく体力がムチャクチャありです。

クラックぞいにルートがあり、残置支点皆無で、ロープを少なくとも40mは伸ばしますから、最低フレンズを2セット、ストッパー1セット、予備のフレンズ数本、ヌンチャク・カラビナ・スリングをそれぞれ1ダースを身につける必要があります。

そして、40m以上登りながらフレンズを10箇所近くセットしますから、体力一番です。

グレードも、技術的には日本より一ランク下ですが、体力的には一ランクは上です。
 
とにかくみんな体力があります。さきほど登場した筋肉マンのボルダラーも、瀕死のガリア人の彫刻そのものでケルト人の血を受け継いだスペイン系で、プロレスでもやった方が良い体格です。

50kg位の鎧を着ても刀を振り回せそうですから、15kgのギアなどなんでもないのでしょう。

Five and Dime Cliffで、約28mの10aクラックにトップロープで挑戦しましたが、上はワイドでレイバックしか手がなく最後にややハングしたワイドクラックを10mも登ることになると、テンションが5度くらいになりました。ムーブそのものは5.9程度ですが筋力の持久力がいるのです。
 
それはそれとして、登る前に、どこにどうフレンズをセットして落ちても外れないプロテクションの設計をするのですが、これは経験と頭がいります。

リーダー、ビレイヤーが共同で即席の設計図を書くわけです。下手をすればテンションがかかった時、下から順番にフレンズがはずれます。その対策をしている例は、滞在中、一件だけでした。

ひどい例では、壁から離れてビレイして、落ちれば必ずフレンズが抜ける例もありました。事後的には解るのですが、失敗しない為には紙上演習が必要です。「アンカー」という表題のテキストはとても参考になります。

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■ヨセミテは楽しめるか・・・オー、イエス!イエス!

ヨセミテは楽しめます。ここでクライミングを始めてもスワンスラブやFive and Dime Cliffで十分楽しめます。

快適なキャンプ場、買い物至便、カラリと乾いた気候、風光明美、車を降りて数分の岩場、クライマーの天国です。

どんな登り方をしようと、まず自分が楽しいことが、それが必須条件です。

そして、5.8のクラックをフレンズを使って安全にリードできれば、数本の名クラシックルートをトレースできます。

5.9が可能なら10本以上の二つ星以上のクラシックルートをトレースできます。

10.aが登れたらかなりのビッグルートが可能になってきます。

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■クライミングの意味

ヨセミテに行って感じたことは、パイオニアワークはもちろんアルピニズムもクライミングを意義づけてくれるものではなくなったのだ、という事です。

クライミングの世界だけではありません、私の仕事の世界でもそうです。世の事象をすべて、個人の世界で位置付け、その結果的総和が世界となります。事前確定的世界、意味説明的論理から の離脱です。ヨセミテでクライミングもやっているのは、日本人を除き全て白人です。

パイオニアワークもアルピニズムも白人の発明品で、東アジア文明圏ではだいたい美意識、酔狂、因果応報、主体性なき個人でやってきましたので、まー、この二つどうでも よいことなんでしょう。

とは言っても、パイオニアワークもアルピニズムも無くなるの は、寂しい気もします。その逆に、若いころからどうもこの二つ好きだけど間尺に合わないとの疑問をもっていましたから、スッキリした気もします。

これに追い打ちをかけているのが、スポーツクライミングの隆盛です。アメリカやフランスでは学校で教えています。

こうした背景もあって、勝手流クライミングが市民権を得ているのかもしれません。

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◆クライミング日誌

1999/08/14 … 成田発13:55 KE001
ロスで国内便UA5307でフレスノにお昼ごろ着く。荷物が出てこない。やっぱり、アメリカだ!と思うが、バゲッジクレームで文句を言い始めると、部屋に案内され、先の便で到着した荷物を無事ひきとる。

レンタカーを借り、途中オバサン、オジサンに道を聞いて、41号に入る。後は、ラジオから流れる音楽にあわせて、車を飛ばす。

ひたすら北上して、5時前、ヨセミテヴアレーのキャンプ4に到着。レンジャーはキャンプ場が満員だから、明日来てくれとのこと。

ヨセミテロッジで食事して、キャンプ地内を歩くと、大阪から来たという山の会の人に会う。ステーキの差し入れをしてもらった。

08/15 … スワンスラブでのトップロープクライミング
6時前からレンジャー事務所前にならぶ。3番である。1番はS大学山岳部H氏である。H氏は、職場のクライミング仲間の後輩。

ヨセミテであった人達は、半分くらい知り合いの知り合いで、まったく山の世界は狭い。無事、キャンプ地を確保した後、ヨセミテヴィレッジ、カレーヴィレッジで、食料を調達し、マウンテンショップでエイリアンの1/2、3/4番を日本の8割価格で購入。この二つ、後ほど大活躍してくれた。

夕方、歩いて数分のスワンスラブで、グランズクラック5.9、レナーズレイバック5.9をトップロープのリード方式で登る。イマイチの調子で先が思いやられる。

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08/16 … チャーチボウルへ
ロックアンドスノーの推薦どうりに チャーチボウルに行く。すぐ近くなのだが場所がわからない。警官に道を聞き、ウロウロして発見。車を降りて数分で岩場に到着。

ここだけでも、チンネぐらいは十分あり、あっちウロウロこっちウロウロ。いやー、みんな難しそうだ。その内、祖母、息子、孫の地元クライマーにあう。

ビショップテラス5.8を登っている。3つ星ルートで、竜少年さん随分気にいって乗り気。<あんな高い所まで登るの?途中ハングあるじゃない> と思ってなかなかリードする気にならない。

赤いルージュにタンクトップのオバアサンは、<前に登ったことあるの?>、 地元クライマーは、<アメリカで最初のリード、そりゃすごいね!>と話しかけてくる。それで、緊張も大分ゆるんで、リードにとりかかる。

エイリアン2セット、3番のキャメロット2個、4番と5番のトランゴ、ストッパー1セット、ヌンチャク、カラビナ、スリングを1ダースもってリードする。

以後リードは、これだけ持って登る。10mほど登ったところからすっきりしたクラックとなり、フレンズもバッチリ効く。念のため、ヌンチャクかスリングをかけ遊びをつくる。

ハング下まで到着すると、上のテラスにいるクライマーが、そこでピッチを切れとういう。

フレンズ3個で確保支点をつくり、さらにその上にフレンズ2個でロープの折り返し点をつくる。確保中、足が熱くてたまらない。岩が熱くなっているのだ。

竜少年を迎えたので、トランゴ5番で、私が落ちた時の上向きの力に対抗するよう確保支点を補強する。

ハング下にキャメロットの3番をバッチリ効かせる。ハングを左に逃げ、その上の岩搭にスリングをかけ、強力な中間支点とする。これで確保は万全だ。核心のクラックを6mくらい登り、バンドを右にトラバースして岩搭にスリングをかけた確保支点に着く。

もう1ピッチあるようだが懸垂で下る。素晴しいルートである。

夕方、スワンスラブ下部スラブ5.7を登り、広場上のペントハウスクラック群右端フレーク5.8にとりつく。ここは短いがけっこう立っている。フレンズ2個効かせて、一気にバンドに登る。

バンドの右へのトラバースがややハング気味でいやらしい。さらに左上するワイドクラック、易しいが乗り込む所がいやらしい。すべて、フレンズでプロテクションをとる。背後にハーフドーム、周囲にヨセミテの岩場が見渡せ、素晴しいルートである。

今日は、期せずして素晴しいルートを2本登った。5.8クラックのリードは、まず大丈夫のようだ。

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08/17
休養を兼ねて、マニュアルパイルバットレスの取りつきを偵察する。 地元クライマーが取りついている。各ルートとも40m以上あり、けっこう難しそう。

アフターシックスを登っているクライマーの登り方を見学。みんな、膨大なチョク類を持ってのぼる。

マルチピッチの取りつきは、スワンスラブと異なり、たいていの人は真剣。アフターシックスの1ピッチ目は、5.6なんてとんでもない。5.8はありそうだ。

今日はとりあえず、1ピッチ目を試登する。例によってギアをいっぱい持って登る。右向きのコーナーで、コーナーの奥がクラックである。フレンズをセットしながら上がる。

途中の枯木にスリングを回して支点をとって一息。ここから上、右のスラブにもホールド乏しく、核心部。エイリアン2個セットして上がる。

さらに上がった所で左に残置チャンネルピトンあり。中間支点をとって、ヤレヤレと思う。さらに登り、右上ランペにあがる前に、エイリアン3個で強力な中間支点をつくる。右上ランペに移行するフェースは5.8ムーブ。ランペを登りさらに左上して確保支点の木に着く。

バックロープを引き、ギアを満載した荒井さんを迎えて、懸垂でくだる。カレーヴィレッジでシャワーを浴び、早いめに就寝。

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08/18 … マニュアルバットレスでのマルチピッチ
早いめにマニュアルパイルバットレスの取りつきに向かう。といっても。キャンプ4から車で7分、歩いて3分という信じられないアプローチである。

9時に取りつく。1ピッチ目は、昨日登っているからプレッシャーは少ないのだが、二つ目のフレンズをセットした所でズルズル滑る。

ヤバイヤバイ。2ピッチ目クラックは、ツルベで竜少年が登る。ここが、5.6である。3ピッチ目は、スラブ、ワイドクラック、スラブは5.6くらいで55mロープを伸ばしテラスというか岩にかこまれたアルコーブに到着し、ここで石ころ二つポケットに入れる。平島さんと木村さんへのプレゼントである。

途中、フレンズで中間支点をとる。ワイドクラックはその左のフェースを登る。4ピッチ目は、スラブの中にクラックがあり、荒井さんリード。5ピッチ目はスラブに始まりクラックで終わる。60m近くロープを伸ばす。6ピッチ目は同じような所を25mぐらい登ると小川山のような頂上にでる。1時であった。

ヨセミテの岩場にとりかこまれ、エルキャピタンを眼前にした素晴しい場所である。

小さなケルンに導かれ踏み跡を下る。そして、取りつき点に到達する。アフターシックスは人気ルートで、その日われわれが知っているだけでも3パティーがとりついたことになる。セレクションを大きくしたルートである。

08/19
ヨセミテの北方にあたる標高2,400mの高地、トゥオルム・ミドウに向かう。車で山道を飛ばし 、カーブを楽しむ。

助手席の竜少年、オー、ヒャー、オヨヨヨー、の連続。テナヤレイクと言う湖のすぐ北にあるステーイツリープレジャードームを見学する。西面には多くのクライマーがとりついている。やっぱり星が多くて易しい人気ルートは人も多い。
 
夕方、レナーズレイバック5.9をリードする。とにかく、ヨセミテで5.9クラックをリードしてほっとする。その後、スラブをトップロープで登る。

08/20
チャーチボウルに再び行くが、登れるルートがない。しかたがないので、ファイブアンドダイムクリッフに向かう。予想以上のスケールに驚く。

約28mの10aクラック、コッパーペニーにトップロープで挑戦する。フェー ス、シンクラック、ハンドクラック、ワイドクラックと続く。最後のややハングしたワイドクラックはレイバックしか手がなく、何度かのテンションの後、到達した時は全身疲労で言葉もでない。ここは、トップロープのセットが可能でクラックの良い練習場所だ。

マーセード河で泳ぎ、その後、車をバンバン飛ばし4時には フレスノに着く。途中、竜少年、オー、ヒャー、オヨヨヨーの連続。 フレスノ泊

08/21 … フレスノ発国内便UA5304,LA発KE002
08/22 … 成田着13:55

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以上のようにヨセミテ渓谷のクライミングの世界に浸ってきたが、これはなかなか結構な世界である。

ボルダー、ショートピッチ、マルチピッチ、ビッグウオールを同列に並べて楽しむ。宮仕えの予定の立たない私には、実に心地良い世界である。

時間の事情に応じて、メトリウスにぶらさがる、室内壁、鷹取の半日クライミング、近くの岩場での一日クライミング、三つ峠や小川山でのマルチピッチクライミング、バットレスでのアルパインクライミング、インスボンやヨセミテでのクライミングを行い、みんな同じ価値なのである。

こりゃストレスたまらない。どっかダマシがありそうだが、みんな天国にいけそうな教えである。

山を始めてまず浸ったのが、積雪期の北アや白山のヒマラヤ的世界、そして黒部の谷歩きの世界。勤めてからは時間がなくなったので、短時間で充実する冬の八ヶ岳や春の穂高でのヨーロッパアルプス的世界。

今の生活事情からは、入りやすく奥行きあるヨセミテ的世界を主として、時々冬の八ヶ岳や春の穂高でヨーロッパアルプス的世界に出かける。これが間違いなさそうである 。

(佐々木貴之 記)


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◆ヨセミテ生活のポイント

  • チケット

    価格を10万円以下に抑えたい。韓国・インスボンとセットで考えるならソウル発成田経由ロス往復のオープンチケットをソウルの代理店で10万円以下で買えると思う。まだまだ工夫必要。

  • レンタカー

    どこで借りるかであるが、運転時間と運転手の数を考えるとシスコかフレスノであろう。運転時間はフレスノからなら3時間以内。

    今回は小型車一週間で約250ドル、ガソリン代2 5ドルであった。運転手を2名としたので追加に一日9ドル払ったが、運転したのは佐々木のみであったから無駄となった。250ドルには任意の対人対物保険が含まれている。

    今回は、フレスノの田舎町と国道であるから運転は容易であった。右側交通もさして気にならなっかた。なお、佐々木は海外での3年間の運 転経験あり。

  • キャンプ4の確保

    夜明けごろ並べば、必ず5番以内で間違いなくキャ ンプ4でサイトを確保できる。レンジャーから聞かれることは、この1年間で初めてか、何日、何人、テントの数、クルマの台数とナンバーである。日本でメモをあらかじめつくっていけば、会話能力は不必要。

  • 会話能力

    英語であるから、非英語圏のフランス、アラブ、インドネシアに比べたらコミニケーションはぜんぜん楽。だれか一人日常会話できる人がいれば、ルートの確認など安心できる。


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