八ヶ岳 横岳西面・小同心クラック
「クニさんハーケン回収した?」
感激のフィナーレとはならなかった。平島さんの呼びかけに終了点間際の私はすかさずクライムダウン。回収すべきハーケンの他に最終ピッチ取付きのウエーブハーケン(これがなかなか抜けない)まで回収してしまった。
良く解釈すれば“快適な最終ピッチを2度楽しんだ”と言うことだろう。登攀終了は結局16時となり無線で荒井さんに「後1時間でテントに着きまーす」と報告するも夜の帳のおり始めた17時にはまだ地蔵尾根の頭あたり。同日、阿弥陀北稜を登って早々と帰幕した荒井さん、岡部さん、桜井さんにずいぶん心配をかけてしまった。
憧れの横岳西壁
初めて冬の八ヶ岳を単独縦走した10代の頃に横岳山頂でザイルをしまう登攀者を見た。羨ましかった。異元次の存在を感じた。いつの日にか自分もこんな風に登ってみたい。雪山賛歌の“雪よ岩よ”の“岩よ”の部分を小さな声でしか口ずさめないのは悲しい。
ダブルヤッケをバリバリに凍り付かせながら吹雪の中を進む青年は赤岳の山頂で主稜を登り終えた登攀者に再び出会う。凹角がしょっぱかった等と言いながら満足感に浸っている。ビバーグの準備をしながら眩しげにその登攀者を見つめた。
その時出会ったのは未来の自分自身だったのかもしれない。長く山から離れていたが、あの時の憧れは消えずにいた。そして今、横岳山頂で私はザイルをコイルしている。2日後には、主稜を登り終え赤岳山頂で硬い握手を交わした。
■12月28日 快晴
天幕場で北稜組と別れ、喜びと期待と入山の疲れをアタックザックに詰め込み取付きへ向かった。 目指す小同心クラックにはほとんど雪がついていない。
行者小屋幕営地点から小同心クラック取付きに向かうには、中山尾根を越えて赤岳鉱泉経由ジョウゴ沢方向に向かい、途中から大同心沢に入る(標識あり)。
大同心沢をしばらく登り、途中から左の大同心稜通しで大同心取付、右にトラバース気味に小同心クラック取付きとなる。
慎重な我々は下降ルートとなる地蔵尾根を森林限界近くまで偵察?という余裕で赤岳鉱泉にて一休み。はっきりと付いたトレースを辿り鉱泉から2時間弱で取付きへ。
やはり先客がいる。12時登攀開始、大同心を人工で登っているパーティーが見える。
1ピッチ目 40mIV-
フェイスからチムニー、ピナクルでピッチを切る。先行パーティは2ピッチ目で苦しんでいるようだ。晴れている。フラットソールがあれば快適だろう。行者小屋方向を見ると、我らの天幕の側に3人立っているのが見える。多分荒井さんたちだろう。
2ピッチ目 35m IV
傾斜のきついチムニーから凹角、リッジを経て肩ヘ。
核心部。チムニー途中にある突起した岩に抱き着き、左から越すのがポイントだが、私は右のチムニー沿いに進み行き詰まる(ラストのくせに)。体の向きを変えるもザックにぶら下げたピッケルが邪魔して身動きが取れなくなる。
両腕がパンプしたのでいったん下降する。少し休んで意を決し突起した岩に抱き着き、一気に乗り越す。時間はかかったが、何とかA0もテンションもなく登れた。
錦少年さん平島さんは何事もなく登っていった。なかなか登ってこない私を落ちたんじゃないかと話していたそうであるが、私は今回インチキせずにちゃんと登った。
下から双眼鏡で見ていた荒井さんが赤いヘルメット2つの後の白いヘルメットが石のように固まっていたと天幕に帰ってから言っていたが、それは掴んだホールドがポロッと取れてしまい焦っていた私です。(^^;
3ピッチ目 15mIII
バンド左上して、小同心ノ頭へやっと登った。ここまで約3時間くらい(だったと思う)
4ピッチ目 40m I~II(?)
小同心頭から、横岳山頂へ突き上げる岩稜基部ヘコンテ。
5ピッチ目 20m III
なかなか楽しい岩場。終了点側には横岳山頂の標識。あまりに楽しいピッチなので私は2度も登った。クライムダウンは結構しびれた。
地蔵尾根の下降
横岳山頂から稜線を南下し地蔵尾根を下る。日が暮れ始め疲れも出ている。地蔵尾根が遠い。錦少年さんも私もヘロヘロ。途中でほとんどのギアが平島さんのザックへ。
有り難いことに、遅くなった我々を心配して荒井さんたちは地蔵尾根下部まで迎えに来てくれていた。尚、稜線に出るのが遅かった今回は、3ピッチ目から左にトラバースして硫黄岳方向に向かい鉱泉に下るルートをとるべきだったかもしれない。森林限界までのルートの所々に鉄板の階段が設けられており、雪が少ないとアイゼンが滑って危険。我々の後のパーティーはザイルを出していた。平島さんの底力を実感。
遠くから見ると切り立った垂壁でよくあんな所のぼるなといった感じだが、ホールドは総じてガバ系が多く快適なルートであった。次回は、早朝発で休養日の次の晴れた日に裏同心沢のアイスクライミングからの継続というのも面白いだろう。当日は気温高くほとんど春山気分。フラットソールが欲しいくらいだった。
コンクリートされていない不安定なホールドが多く見られたので体重をかける前にチェックは必ず行うこと。支点は岩の突起からとる場合が多く長めのスリングが有効。フレンズの友情を感じる場所がいくつかある。
装備
事前打ち合わせでの個人装備をミニマムと考え追加した物もあった。私の持っていった道具についてコメントしてみる。
ピッケル:60cm。
ちびの私には長過ぎる。ザックにさすとチムニーでよくつっかえた。50cmが使い易そう。
ハンマー:アイスハンマー
主稜で支点の取れない凍り付いた長い草付き稜線をリードした折りピッケルとのコンビネーションのピオレトラクションに有効だった。引きずるザイルの重さでひっくり返りそうになる恐怖から救ってくれた。が、雪庇の切り崩しや雪壁ルートが含まれる場合はアイスバイルが便利だろう。(小回りの利くアイスハンマーも捨て難いが)
アイスバイル:
50cm シャフト直線。今回チューブピックに取り替えて来たが、結氷状況によってはバナナピックの方がよく利く場合もあることを実感した。ジョウゴ沢右股F1で利かずテンションとなってしまった。同じ道具で登った錦少年さん、オカベさん、遊さんはノーテンション ん?
アイゼン:ワンタッチ
登りながら外れる心配をしないでよいのは精神衛生上よい。アイゼンバンドが凍り付いて装着できないと嘆いていたのはいつの事だったろう。
ビナ:
8個は多すぎ。打ち合わせ通り6個でよかった。環付は2+ハーネス用1でよし
ヌンチャク:長め2
使用場面があった。各自1持っていると便利だろう。
スリング: 超長1、長3、短4。
出番は無かったが6mmロープ2 と10mmテープ3どちらかだけでよかった。錦少年さん特許の“エクスプレス スリング?”は良い発明である。どんな物かはきっと錦少年さんの記録に出ると思う。
ハーネス:チェスト+シット。
上と下をテープで連結。懸垂やビレーの場面に応じて器具をつける位置が変えられてよかった。腰にボリュームの無い私はハンマーの重さでずり落ちようとするハーネスに閉口。冬のアルパインにはウィランス型の方が良いかもしれない。チェストハーネスとギアラックで胸の廻りはゴテゴテとなった。もっとすっきりさせたい。
ヘルメット:
遠くから見ていてもヘルメットの色でどれがへぼクニかバレルので今後は組む相手に合わせた色のヘルメットにしようと思う。
ウエア:
予備衣料は手袋と靴下のみ。手袋はインナー3、アウター2、インナー3は胸ポケットに入れ、クライミング途中でしばし取り替えた。
トレーニングそして次回冬合宿に向けて
今回冬合宿前のトレーニングとしては、会山行の中ではアイゼントレを丹沢及び幕岩、そして冬山モード切り替えとして谷川岳雪訓と天神尾根からの登頂に参加した。耐寒訓練として薄着での通勤(コートを着ない)。しだいにひどくなる腰痛対策としての湯上がり後のストレッチングを2日に一度行った。
筋力については弱点の握力強化のために、ハンドグリッパーを会社に持ち込み、お客さんに電話をかけながら左手でぎしぎしとやっていたアシスタントからがうるさいと言われ途中で中止、多少の効果はあったようだ。
不足していた内容は、テクニック部分は別にして持久力及び担荷力である。合宿という大きな目標があるにもかかわらずトレーニングできなかったのは不甲斐ない。
登山活動すべてのストラクチャーとなるので、そのうち走ろう等と安易に捉えづ、実施に向けていつどこで何をするという具体的なプログラムを作るべきだった。
「実際のクライミング以上にモチベーションがトレーニングの持続と達成には必要であろう」と、こたつに首まで潜り込みながら考える。さて今年私はどうしようか?
吹雪の中を、あれもありこれもありしながら山頂を目指す冬季バリエーションはまさしく私のやりたい山である。
次回冬合宿ではバンバンやりたい。中山尾根は手強そうだ。ルンゼ氷瀑から岩への継続もやってみたい。
そのため今年の課題と対策を表にしてみた。
課題
持久力および担荷力
日常的に行う部分と、バーンと一発という物
両方やりたい
日常:通勤時歩く距離を伸ばす
山行:近場の丹沢、奥多摩極力休ま
ず歩く。
筋力
握力、腹筋、背筋、脚、腕力
全滅だ。
ハンドグリッパー、ヒンズースクワットなどメニュー作って日常生活に組み込む。家族に気味悪がられるのが難点
客先で頭を下げる角度を急にすれば腹筋・背筋強化につながる?
技術 岩
弱点強化
チムニー、クラック、ハング、手の届かないフェイス…すべてが弱点だ!
室内壁でボルダリング。ライバルは御老公。昨年は結構効果あった。
クラック、チムニー含むルートに行く瑞牆山にも行きたい
氷
とにかく始めよう
凍っている間に通いつめる。
塚口さんよろしく
ビレー
注意深く場数をこなさなければならない
トップロープに頼りすぎるのが癖になると良くない。実際の登攀を増やす。
人工
アブミに立つことから始めよう。目標最上段
体力強化が前提条件か
岩トレ時に必ずアブミ持っていきハングあったらおもむろに取り出す。
追浜の駅で、錦少年さん、酒井さんが鷹取に来るところをアブミを持って待つ。
精神力
何がなんでも登り切るという鉄の意志を身に付ける。
4-5ピッチくらいの日帰りショートルートに通う。フォロワーであっても自分でリードしている気分でルートを見極めて登るようにする。
絵に描いた餅となる公算大ではあるが、努力目標ということで頭にあることを形にしてみた。
今年も皆さん宜しくお願いします。
(記 クニ)