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八ヶ岳 赤岳西壁主稜

【モティベーション】
 クライミングを成功させるには日頃のトレーニングはもちろん大切であるが、あのルートを絶対登るんだ!といった強い動機付け(=モティベーション)も大切な要素だと思う。
その動機が今回の3人にはあった。
 竜少年さん、ヤスコ姉の二人は、2週間前の冬合宿で阿弥陀岳北稜を胸までのラッセルで進めず、よもやの敗退を喫しており、私はその前夜の「エアマット空気漏洩事件」で、独り眠れぬ一夜を過ごし、ボーッとして北稜のメンバーにも入れなかった。
そんな惨めな3人が、1月には珍しい中旬の3連休を“こたつでミカン”で過ごせる訳はない。
「おのれ!見ていろよ!」と、肩肘を張る気はないが、「チャンスがあれぱ」という気持ちは強い。われわれには動機付けは十分にあるのだ。その気持ちがよく出ていたのが竜少年さんから送られてきた計画書だった。行動計画欄には「1月14日、赤岳主稜または阿弥陀岳北稜。またはその両方」とあり、相当気合いが入っているのがわかる。
それにしても両ルートを連続してやる気があるなんて、竜少年さんも若い!

【登攀前夜】
 ラジオの天気予報では、日本海で発達した低気圧の接近を伝えている。
明日の後半から下り坂になるという。進路からいって南西の風が強まるだろう。
 竜少年さんから明日のオーダーが伝えられる。トップNob、セカンド竜少年さん、ラストヤスコ姉の順だ。トップとセカンドの間を10.5mmで、セカンドとラストを9mmザイルで結ぶという合理的なオーダーである。本チャン初のトップに緊張し、お酒を口に運ぶピッチが増えてしまった。(^^;

【テントサイトから取付点まで】
 7時出発。暖かな朝である。快調に文三郎道を登る。階段を登りきり、主稜への下降点に着く。天気は晴れだが、低気圧の接近を示す不気味なレンズ雲が北アルプス方面にたくさん浮かんでいる。このレンズ雲、いっ見てもや一な感じである。
 右ルンゼには雪は少なく、安定していた。取付点着7時50分。先行パーティーが4,5組ほどいて、1時間近く待たされた。



【1ピッチ目】 いよいよ我々の番である。8時45分スタート。主稜末端の側壁をルートにとる。ひと抱えもある大きなチョックストーンの下をくぐって、チムニーを登るなかなかアクロバティックな登りである。手足を広げてのオーソドックスな登りを楽しんだ。金田さんはII級と言ってるけれど、III級位はあると思うんだけど?
 手袋とアイゼンでのクライミング初体験。取付からおよそ15mほど登ってピッチをきる。

【2ピッチ目】
 ここは落石の宝庫。上の岩壁から小石くらいのヤツがびゅんびゅん落ちてくる。まったく落ちつかないところだ。

 この2ピッチ目は岩壁の下を右上気味にトラバースし、裏に回り込んでから小さな垂直のフェースを直上する。が、ここが案外やっかいで、腕力を頼りに乗り越すのだが、ザイルがZ形に延びていくために重くなってしまう。
 ザイルを引っぱりながら登りきると、不安定な浮き石の目立つ岩の斜面に出た。適当な所で確保態勢をとる。

【3ピッチ目】
 小さな岩場を越えると、あとは問題のない易しいリッジの登り。ザイルいっぱいまで延ばしてピッチをきる。右手には右ルンゼがスッパリ切れ落ち、対岸に南峰リッジが並行して走っているのがよくわかる。
 竜少年さんを迎えて、二人でヤスコ姉が登ってくるのを眺めていた。主稜が本当にリッジらしい雰囲気を漂わせているところで、はるか下には行者小屋の屋根や色とりどりのテント群も見える。下から登ってくるヤスコ姉の姿が絵になる場所だ。

【4ピッチ目】 引き続いて岩雪ミックスの稜線を直上するが、次第に雪壁状となり最上部で第2の岩壁に阻まれる。岩壁の下を右にトラバースして、右端のリッジのコルに上がりたいのだが、ザイルいっぱいで届かない。仕方がないので雪面を掘って岩を露出させ、なんとか確保支点をこしらえた。
 後続の竜少年さんには私より上に行って貰い、雪面に出ていた灌木で支点をとってもらった。その後、竜少年さんの確保で私がコルヘ上がる。続いてヤスコ姉、最後に竜少年さんが到着した。

【5ピッチ目】 さて、いよいよ主稜最後の核心部である第2の岩稜の登撃だ。コルからリッジ通しに登る。緊張しているせいかルートをマクロな視野で見ることができず、左寄りの垂壁で行き詰まってしまった。
 垂壁といってもホールドは豊富なので、乗り越そうと思えば行けそうなのだが、身体が重くてどうにも踏ん切りがっかない。

 念のためということで、私の腰まわりにはカラビナに加えてハーケン4枚、フレンズ3本、それに荒丼さんご自慢のミゾーのいぶし銀ハンマーまでぶらさがっている。重たい筈である。ガチャガチャと擦れる音が、彼らを一向に使ってくれない今日の主人に対する不満の音に感じてしまう。「おまえ達を存分に活躍させてやりたいけれど、使い方をマスターしていない主人に仕えた身の不運と思ってあきらめてくれよな。」とギア類をなだめながらの登攀である。

 そうこうしているうちに前爪2本でスタンスにのっている両足がミシンを踏み始めた。
「やばいな一」と思いつつ思案する。下からは竜少年さんが「右だよ一!」と怒鳴っている。
<わかっているけど、降りられないんだよ一!>と叫ぶのも恥ずかしいので、カッコ付けて「これからクライムダウンしま一す!」と言ってしまった。

 錆びたハーケンにランニングビレーをとり、やっとのことでクライムダウンをし、右寄りに凹角状のルートをとる。先行パーティーのザイルが邪魔だったが、強引にAO混じりで乗っ越し、リッジの上に出た。
 こうして核心部を突破する。この頃より天候がにわかに崩れだし、強風とガスが辺りを覆い始めた。

6ピッチ目を登るNob
【6ピッチ目】
 強い風とガスの中の登攀。傾斜は緩くなり、ザイルいっぱいまで延ぱしてピッチをきる。
天気は下り坂だが、核心部を無事に突破できたので余裕も生まれ、ポケットに忍ぱせておいたキンツバを頬張る。甘くて美昧しい。力も湧いてくるようだ。


【7ピッチ目】 ガスは深く、風はますます激しさを増してくる。ぐっと傾斜のゆるくなった斜面が登攀終了点だった。(13:55)
 二人を迎え入れてから急いで身支度をすませ、頂上へと向かう。
 天候悪化が懸念されたので北峰頂上はその直下であきらめ、天望荘に下る。時々耐風姿勢をとりながらの下山となった。西南西の強風、気温マイナス5度はやや高めか。
 天望荘の軒先で風を避け、大休止をとる。(14:20~40)ここで3人で固い握手を交わす。

生まれて初めて冬のバリエーションルートを登りきった達成感と感動が身体中を駆けめぐってくる。竜少年さんとヤスコ姉に見守られてのトップは楽しかった。素晴らしい仲間との本当に充実したクライミングだった。行者小屋のテントサイト着15:20。



■感想
 私にとっては実に楽しく、そして充実した登山だった。しかし、冬山バリエーションの初級者としての反省点もいくつかあるので、率直に振り返ってみたいと思う。初心者がつまづき易い典型例として読んでほしい。
(1)ピッチをきる場所が不安定だった。
 自己確保をするのに精一杯であり、二人が登ってこられるだけのスペースを考えた場所をなかなか見つけられなかった。要するに「その次」の行動を念頭においた動きができなかったということ。

(2)ザイル操作の手際が悪い。
 セカンドの確保をする際、ザイルをうまく振り分けながらの回収ができないので、足元にザイルがバラバラに散乱してしまい、アイゼンで踏みそうになったり、こんがらがったりいいことがなかった。ザイル操作にもっと習熟しておくべきだった。

(3)ザイルの流れを考えたルートどりができたか?
 幕岩や三ツ峠などのゲレンデ感覚が抜けないせいか、残置の支点に頼ってぱかりで目分にとって最適な場所でのランニングビレーがとれなかった。近くの岩角よりも遠くの残置ハーケンに支点を求める傾向があり、ザイルの流れがスムーズにいかなかった。
 また、ハーケンを持っていても、打った経験がなく、リスの方向やリスの幅などで最適のハーケンを選ぶこともできない。そんな技術水準でザイルのトップをっとめたことが本当に良かったのか?ウーン、考えさせられるなあ。

 今回の反省点はきっと次回の登山に活かすことにしよう。赤岳主稜は私にとってたくさんの宿題を与えてくれたけれど、同時にたくさんの感動も与えてくれた。
 また来冬も八ヶ岳を訪れてみたいな。(記 Nob)

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