北鎌尾根 ~2019.9.14-16~

dakekanba-admin

■日程:2019.9.14-16
■参加者:KOO、Qちゃん、すけちよ

薄ピンクと水色の女子、緑とオレンジの男子、白のラインが入ったお揃いのジャージに身を包んだその姿は、北鎌戦隊4レンジャーに見えた。のは私だけかもしれないが、彼らが北鎌平で振る舞ってくれたシューシーな梨の一切れが最後のもうひと踏ん張りを後押ししてくれた気がする。

9月の高い空の色に、穂高の山並みのコントラストが目に飛び込んでくると、自然とほほが緩んで来ます。最低限の装備なのに、50Lザックのショルダベルトが肩に食い込むなか、まずは北鎌沢出会いに向けてスタート。朝一は寒いくらいでしたが日差しが出て、水俣乗越の急登に入ると途端に汗が噴き出す。本番の明日に備えて体力を温存したい所だが息が上がる。下りも気が抜けない斜面で、アプローチでスタミナを削がれる。
16:00に出会いに着くもプチ涸沢かと思われる情景に、天気のいい3連休なのでそこそこ入っているとは思ったが、テントが裕に20は見て取れ、バリエーションルートかと目を疑う光景。4人用テントを張れる場所は限られていて、10分ぐらい登り返した場所にテントを張り、明日も晴天が続くことを祈りつつ19時過ぎには横になった。
3時に起床、出合いを5時にスタート、日の出前の暗がりにつながるヘッドランプ。富士山か!と心の中で突っ込みを入れつつ沢筋を上がっていく。こんな状況ですから迷うわけもなく、順調に高度を上げて、明るくなったところで休憩をしていると3人パーティーの女性が目の前で、1.5mぐらい背中から落っこちた。下が平らな場所だったから良かったものの、朝から手汗が出る場面に気が引き締まる。
北鎌のコルに着いて休憩をとると、私たちを含め10人ぐらい休んでる状況で後から上がってくる人たちは休憩場所を求めて少し先に進む始末。踏み跡がしっかりついたルートは油断を生む恐れが有ると思ってしまうほど。イメージしていたルートとは少し違っていたが、要所要所で出てくるクライミングエリアはグレードだけでは測れない集中力を抜くことを許さない緊張感がやはり有る。

独標に出ると槍が綺麗に見え、やっと実感が湧いてくる。ここまで6時間まだまだ先が長い。この先、呼吸をなるべく乱さないように、心拍数を上げすぎないように注意しながら手を積極的使いながら足を出し、徐々に槍先が近づいてくるが、同時に疲労の蓄積も上がってくる。トラバース出来るルートは積極的に使って体力温存を優先に登行。
北鎌平を抜け、あともう少しというところで休んでいると、北鎌沢からずっと同じペースで来ていた4人組が一緒に一服することに。リーダーらしき青年がザックから出したのはみずみずしい梨。10徳ナイフを取り出すと慣れた手つきで皮をむき、一口分削いだ果実をどうぞと差し出された。え、いいの、ありがとうとお礼をいいつつ遠慮なく戴いた。ゴールはすぐそこと言うこの場面で差し出された梨はじつに例え難く、口、喉、胃袋を満たしてくれた。この一押しを受け頂上を目指す。
最後のクライミングポイントでロープを出してすけさんリード、フィックスロープで私が登り、セカンドでQちゃんが突破。そうこうしていると、装いの違うさっきの4人組が現れた。槍先にお揃いの衣装で登るために、用意したジャージに着替えた4人組。アンパンマンは疲れた旅人にアンパンを振る舞うが、梨を振る舞い、槍の頂上に同じジャージで登頂するために着替えを持ってきて登ると言う彼らの姿は、正義の味方ヒーロー戦隊4レンジャーのキャッチフレーズを思い浮かべずにはいられなかった。軽量化も何のその、そんな姿を横目に一足早く登るとそこは、行列の頂上。3時間かけて頂上にたどり着いたと言う人たちの話に北鎌を登ってきた私の方がビックリしてしまった。頂上では西鎌尾根を流れ落ちる雲の滝や、槍の影の先に虹ができるブロッケン現象を見ることができ短い時間を堪能しました。天気に恵まれた今回の山行はまた一つ経験値を上げることができた楽しい山行でした。

@KOO


クライムオン!
2019年9月15日、槍の穂先に向けて山行が始まった。 今回の日程前にも何回か話は出たが、もっと経験値を上げ満を持して挑もうと三人で山行を共にし、ようやく迎えた三連休。お天気はバッチリだ。日付が変わってから到着した沢渡の駐車場はほぼ埋まっている。テントを設営して入山前祝に軽く乾杯して就寝。3時間ほど仮眠をとってバス待ちの長い列に並び上高地へと降り立った。さすが上高地。涼しいを通り越し寒いくらいの気温だが最小限にしたつもりの荷物は重く瞬く間に大汗をかく。今日は北鎌沢出合まで。
水俣乗越で大休憩をとり北鎌沢出合に向けて急な斜面を下りていく。砂地で滑りやすく足に余計な力が入る。寝不足もあり足が攣りだした。あちゃ~ここできたか!足が攣りやすいので、水分もこまめに摂れるハイドレーションにし、中身も麦茶(本当はスポーツドリンクがいいけど糖分がありストローがカビる)休憩の度にペットボトルからスポーツドリンクを飲み、干し梅、アミノ酸など補給してきたのに効果なかったか。だましだまし歩き安定した場所で休ませてもらう。石に腰かけ明日向かう尾根を見上げると、あれ?あれは槍ではありませんか!独標に立ってからのお楽しみの姿がチラリと顔をのぞかせていた…
さて幕営場所までもう一息と歩き出すとヘリの音が聞こえる。空を見上げると北鎌尾根の方に向かって飛んでいくではないか。ヘリのお世話にならぬようにしなきゃ。いやがうえにも気が引きしまる。16時過ぎにやっと北鎌沢出合くに到着。すでに10以上のテントが張ってあり4人用テントを張るような平らな場所はなかなか見つからない。手分けをしてようやく敵地を見つけ設営、水を汲みにいく。少なくとも明日は3リットル以上の水を担がなけれならない。明日の分の水も汲んでテントに戻り、入山祝いの乾杯!生ぬるくても充分美味く疲れた体に染み渡る。食事を済ませた途端眠くなり、まだ19時過ぎだというのにそうそうに就寝となった。
2日目は3時半起床、うっすらと周りが明るくなり始める頃から登ろうと4時40分に歩き出す。ほかのパーティも同じように考えていたのか、北鎌沢右俣はコルへ向かう人の列ができている。そのおかげ?でクライマーズホイホイトラップにもひっかかからず7時45分頃到着した。ここにくるまでに何度ラーク!の声を聞いたことか。慎重に慎重に。人数が多い分落石の危険も高まる。踏み跡を辿り独標に着くと黒黒と巨人のような大槍が立ちはだかっていた。
かっこいい!この一言に尽きる。その頂までは遠い。ここからは長い尾根のアップダウンの繰り返し。頑張れ私の足!睡眠はたっぷりとれたので、初日に比べればまずまずの調子だが、お天気が良すぎる上に日陰もない。日差しを避け岩陰で休みながらいくつもある踏み跡、どこで登れそうな岩場を乗り越えていく。どこを選ぶかで難易度が変わってくるのだ。ルートファインディング力が問われる。3人の6つのまなこで道を選択し、力を合わせてようやく北鎌平に到着した。最後の登攀を始めようとルートを探していると、
〝穂先は近い。気を抜かずに頑張れ〟

のプレートを見つけた。その言葉に励まされ最後の力を振り絞る。折角ロープを持ってきたのだから2つ目のチムニーは巻かずに登ろうとリードすけさん。セカンドkooさんがプルージックでセルフビレーを取りながら難なくクリア。しんがりは半ば引き上げられた感じが否めない私。旅の終わりはもうすぐそこ。先頭を切って山頂に着いたすけさんが拍手で迎えられている。全員が山頂に立った時には16時を過ぎていた。
憧れだった山行をやり終え感極まり泣くのかなと思いきや、この場にいるのが夢のようでボーとしている自分がいた…

今回の山行を終え、なかなか会長が許可を出してくれなかった訳がよくわかりました。複雑な岩稜帯を進むため、一旦尾根を登り始めたら途中で引き返したり、脱出したりすることは非常に困難。技術、体力が揃っていることはもちろん、ルートファインディング力。それに加えて気象条件が揃っていなければ無謀なチャレンジでしかないから。そんな場所にようやく許可を出して下さり、送り出してくれたことに感謝の気持ちで一杯です。そして、信頼、信用できるすけさんkooさんとだから成し遂げられたと思います。本当にありがとうございました~。
これからも何卒宜しくお願いします!

どーでもいい追記
そんな殺生な…嫌な予感はしていたがまさか!殺生ヒュッテのテン場にようやく見つけたスペースにテントを設営し、小屋に手続きと祝杯のビールを調達に向かうと、入り口に非情な文字が。
〝ビール、お酒類は全て売り切れました〟
えええ!!!嘘でしょ。そしてご丁寧に近くの山小屋までのコースタイムが書かれていた。勿論買いに行きましたとも、最短の小屋へ(^^)
いつもにも増しての長文を読んで下さった皆さま、ありがとうございました。

@Qちゃん


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この連休、天候にも恵まれ7年越しの目標が叶いました。同行したKOOさん、Qちゃんをはじめ、これまでご指導いただいた諸先輩方に感謝です。
思い返せば、一般登山道とは違う槍ヶ岳山頂の祠の横の崖下から現れたクライマーに感動したのが7年前。それからの私は北鎌尾根に登ることが目標となります。とはいえ事故や滑落が絶えない北鎌尾根。単独で登るか、ガイド山行で登るかといろいろ悩んだあげく、この会に入会させてもらいスキルアップしてから登ることを選択しました。

いつしか同じ北鎌尾根を目標とする仲間が集まり、入会から3年経ってようやく会長から山行許可が降りました。北鎌尾根はとても厳しい山だからこそ、それ以上に達成感が味わえる山であることは間違いないと思います。山行中いろんなことがあり過ぎて頭の中が整理がつかず、登った後も実感が湧きませんでしたが以下にレポします。

■北鎌沢出合まで
前泊となる沢渡駐車場で睡眠時間3時間。上高地から水俣乗越を経由し、16時過ぎに北鎌沢出合に着く。取付き付近は既にテントがいくつも張られており、その数からして15パーティはいたと推測される。水場はあたりにはなく、聞けばここへ来る手前にあった湧き水を汲みに戻るか、ここよりさらに下流の方へ探しに行くしかないという。しかも我々のテントは4~5人用のため、広めでゴロ石のない場所を探す必要がある。さっそく北鎌の洗礼を浴びた形となった。
確実に水を得るために20分ほど手前にあった湧き水を求めて疲れきった体にムチを入れ、来た道を引き返す。しかし我々には山の神様がいたようで、5分ほど歩くと水場とテントに最適な場所が見つかり、ひと安心。KOOさんが用意してくれたビールに感謝して本番前の乾杯。冷えてなくてもやっぱりビールはうまいんだなと実感。蛍光灯のような月明かりの中、20時には深い眠りについた。

■独標
翌朝は5時前に出発。水はひとり3リットルとしたが、念のため自分は4リットルを担ぐことにした。北鎌沢出合から担がなくても沢を10分も登れば途中で水が湧き出ていて給水が可能でした。
北鎌のコルからは「北鎌渋滞」になると思われたが、独標の付近になるとマラソンでいうと第一集団、第二集団、といったように、5つくらいのパーティがある程度の固まりとなって進むような形となった。パーティも4人、3人、2人、ソロといろいろ。ベテランの方もいれば、いかにも山を始めて間もないといった若い人もいる。
我々は第二集団だろうか。さっきまで見えていた第一集団は既に目で追える範囲には存在しない。ということはこの第二集団で先頭に立つパーティがある意味「人柱的リード」となる。ルートの分かれ路になると気のせいか、そこで休憩を取り様子見をするパーティもいるように思えた。
そんな中、独標のトラバースを開始してすぐのところに直登コースと、トラバースを継続するコースが出てきた。正直、自分も判断がつかないし自信が持てないのでなるべく先行はしたくない思いがあった。そんな時、何のためらいもなく登りはじめたのはQちゃんであった。後から聞けばトラバースの更に先にあるチムニーのほうがイヤだからと言う。稜線に出るとそこは独標頂上付近であった。Qちゃんの行動で「ルートファインディングを楽しもう」という気持ちになりました。

■P11~北鎌平
そんな気持ちでルーファイの核心となるP11~P14に取り付くことができたのは大きい。加えて過去に前副会長のDGさんから教えてもらったホームページ「山の手帳(ちょっとバリエーション)」の情報をメモしていたことや、3人で「あっちだ」「こっちだ」と協力し合うことで致命的なルート誤りもすることなく、チーム「岳樺クラブ」がリードで進む。ルートを誤るとひと苦労、その反面、ルートを見つけたときはうれしい。ほかのパーティの後ろを追いて行くだけでは面白くない。これが北鎌尾根の醍醐味。ルーファイの面白さか。
ただルーファイ以上に気を使ったのが落石である。ザレ場では細心の注意を払っても落としてしまったり、上部にいるパーティの落石をよけたりと、何度「ラーク!!」の叫び声をあげたり、聞いたことだろうか。
ようやく北鎌平に着くとヤマ場を超えたせいかそれまで分散していたパーティが集結して休憩するかたちとなった。いつしか仲間意識が出てきて、たわいもない話で盛り上がる。皆が同じ目標、同じ場所にたどりつくために何かの縁で集まった「同志」だ。これも北鎌尾根の魅力ではないだろうか。

■大槍直下~槍ヶ岳山頂
いよいよ最後の核心となる大槍。カニ岩の方向を目指して登る。ひとつめのチムニーはあえて通過する必要もないと判断して右側を巻いてスルー。ふたつめのチムニーも巻けるとの情報もあるが、KOOさんがずっと背負ってきてくれたロープを出す。上で支点工作すると「すけさん、2番は私で、最後はQちゃんでいくよ!」とKOOさんの声。3人が力を合わせて突破する最後の核心も無事に通過した。すぐそこにある山頂からは連休で詰め掛けた大勢の登山者の声がする。
(ここでKOOさんとQちゃんが私が最初に山頂を踏むことをすすめてくれました)
崖下からいきなり現れた我々に驚く人、写真を撮る人。なにより祝福の拍手をいただいたことに感無量です。
7年前、私が見た祠の下から現れたクライマーも喜びをあらわにしていたように、我々3人も固く握手をして称え合い、無事、槍ヶ岳山頂に会旗を広げることができました。
(祝杯は殺生ヒュッテのテン場で。祝杯用にとサバ3尾と惣菜をここまで担いでくれたQちゃん、さすがです)

■さいごに
今回、北鎌尾根を登ってみてこれまで会長が山行許可を出さなかった理由が分かったような気がします。技術、知識、体力の心配だけではない。3人で助け合いながら進み、苦しかったこと、楽しかったこと、経験したこと、見たものをずっと共有し合えることの素晴らしさを分かってほしかったのだと思っています。
北鎌尾根のほかにもたくさんの山があり、難易度ももっと高い山がありますが、どんな山でも目標、夢を持つことが大切だとあらためて感じました。また自分だけの目標でなく、メンバーや新たに入会される方と共有できる山行も目指していきたいと思います。
こうして夢を叶えてくれたのも、これまで会を築いてきてくれた会の皆さんのおかげです。今後ともよろしくお願いします。

@すけちよ