山域:北アルプス 剱岳
日程:2018年6月22日(金)
メンバー:ムー
早月尾根の登山道を登り始めた時、HPへのレポート(今、読まれているこの文章)は「行ってきましたよ」程度の、簡単な報告で済ませようと考えていました。しかし、山頂まであと僅かな距離に到達し、一歩を踏み出すのにも疲労していた時「これは、しっかりと記録しておかないと・・・」と考えるようになりましたので、少しだけ詳しく書きたいと思います。まず今回、剱岳を計画したきっかけは、みっちゃんが国立登山研修所(富山県の立山駅近く)へ行くということで、一緒に登山は出来ないが、せっかくだから便乗させてもらい剱にでも登ろうと考えたからです。それから、いつものように地図とのにらめっこが始まりましたが、今回はすぐに終わりました。それは、早月尾根から登り室堂へ縦走するという計画が、地図上に一本の光るラインとなって現れたからです。(と言ってもソロなので、一般道通行のみで考えると他には室堂からのピストンしか選択肢がないから、自然な流れですね。。。)
ただ、ルートを決めたは良いものの、日に日に不安が大きくなり「梅雨時期なので雨で中止」を期待している自分もいました。不安の原因としては、ソロなことが一番大きい。今までメンバーに頼っていた自分が客観的に見えてくる。そして、残雪の状況が分からないため、ルートファインディングが難しいことや踏み抜きで時間がかかるであろうことも心配だった。探しても今年の6月頭以降の記録が見つからない(誰も登っていない?)。本来ならば、他人が登っているかどうかは関係ない筈だが、最新の状況を知りたくて、誰か登った記録をUPしていないかと探していました。過去の6月の記録を見ていると「クマが出ないかと怖かった」という書き込みや「害虫(ブヨ・マダニ)に刺された」ことが分かったので、嫌なことが増えてしまった(>_<)
結局、2日前のヤマテン予報では天気は良く「当然」ですが実施を決断しました。準備にあたって、会長である竜少年から「早月は長く、つらいッスからなるべく軽量化してください。気を付けて。」(原文のまま)とアドバイスをもらっていた。軽量化は、私の得意分野なのでテント装備(当初、早月小屋と剱沢キャンプ場でテント泊予定)を40㍑ザックに詰め込み無駄な物を極力省きました。ただ、虫は嫌いなので虫よけスプレーなどは持っていくことにしました。登山前夜、番場島に着いたのが1時くらい。途中、野ウサギやイノシシが道路沿いにいて、クマの存在を意識してしまう。とりあえず、少しでも寝ておかないと、と横になり3時に起きる。起きてからは、みっちゃんから「ブルーになってる?」と声を掛けられるほど、負のオーラを放出していたと思う。天気は良いが登山者は他に一人もいない。4時には出発しようと準備を進めるが、気持ちのんびりめ・・・。それでも何とか4時10分くらいに「試練と憧れ」の石碑前を出発した。
1年で一番陽が長い時期の朝は早く、明るくなってくると自然と元気になる。また、熊鈴の音だけが山間に響き渡っているのも気持ちが良い。それもあってなのか不思議なもので、歩き出すとやる気スイッチが入り、あまりペースを上げないように意識しているが、歩きやすい登山道を軽快に駆け登っていく。
今回のソロ山行実施にあたって目標と(意識)しているのは「一か八かはしない!100回やっても100回安全に下山する。」と「止まらない(精神的なもので、休憩しないという意味ではありません)、歩き(進み)続けていれば目的地に着く。」ということでした。夏道だけを行くのなら、一か八かなんてことは無いでしょう。
しかし、今回は残雪が標高1800m付近から出てきました。残雪とはいっても氷のようにカチカチでキックステップは効かずツルツルと滑るようなので、すぐにアイゼン、ピッケルを準備します。残雪は夏道を隠すだけでなく、斜面の角度そのままで固まっているので、残雪個所は急角度のトラバースや急斜面を登るかたちになります。残雪の先に夏道が見えていない場合が多くトレースもないため、ルートファインディングが重要になります。
基本的には尾根上に登山道があると考え、まず登ってみました。急角度なので脹脛を使います。そして上がってみてルートが見つからない場合は、残雪沿いに尾根の先に進んで夏道の切れ目を探しました。遠くからでは藪で隠れている夏道も近づいて初めて見つかる場合も多く、大回りすることが増えました。残雪が先までつながっているようなら雪面を進んだほうが楽ですが、今回は「ギャンブルする必要はない」と自分に言い聞かせて、忠実に夏道をアイゼンで歩きました。
しかし、早月小屋を過ぎて2600m付近だったでしょうか。100m先まであろうかという大きな残雪帯の入り口で、見渡しても夏道が見つかりません。おまけに小ピークが3つほど連続していて、上部まで登らないと鞍部は確認できないので、まず急斜面を登りますが、夏道は見つけられず。滑ったらどこまでも滑り落ちそうな斜面をクライムダウンします。小ピーク上に夏道が見つからなかったことから、斜面の途中に夏道が無いか?探すと残雪の先のハイマツ帯にルートらしい切れ目が3つ目の小ピーク上部まで続いています。急斜面を慎重にトラバースして近づくと、登山道ではないことが分かりましたが、夏道を探すのは諦めて、この見えている最後のピークを目指し、尾根を進むことにしました。
遠くから見るとハイマツ帯の切れ目のように見えていた場所も、登ってみるととんでもない急角度の草付きからの藪漕ぎへと変わります。以前、北方稜線でもルートをロストしてハイマツ帯の藪漕ぎで苦労したことを思い出しました。ただ、その時もそうでしたが、進む先の空は明るく、小ピークまで数10メートルだろうと目測し、「進み続ければ、必ず着く!」と既に疲労困憊になっている身体に号令をかけてゆっくりと登っていくと尾根上に出ました。振り返って夏道を探すと小ピーク沿いにあるではないですか!なぜ、最初に見つけられなかったのかと今でも不思議です。
今回、ルートをロストしたのは、これ1回だけでしたが、この急な草付きと藪漕ぎで残っていた全エネルギーを使ってしまったのでは?と言うくらい力が出ません。ただ、歩けないということではなく、無理ができないという感じです。
冷静にマイペースで、ゆっくりとルートを確認しながら歩いて、快晴なのに誰もいない山頂に11時過ぎの登頂となりました。ここで初めて今までの不安は全て霧散しました。穏やかな山頂で、この日初めて行動食を食べたり、セルフタイマーで写真を撮ったりしました。ここからは、3度も歩いたことのある別山尾根です。時間的にも宿泊予定にしていた剣沢キャンプ場よりも先で、GWから営業中の雷鳥沢キャンプ場まで到達できそうです。
別山尾根は、夏道がほとんど出ていました。しかし、平蔵の頭への登り返しなどは鎖が隠れていて、右手の岩場を登って通過しました。その後も、残雪で夏道が隠れている区間がありましたが、うまく岩場を通過して剣山荘へ到着。剣山荘では、7月のオープン準備作業の真っただ中で、番場島を出発して初めて人に出会いました。さらに「泊ってもいいよ」と声をかけていただいた上に、この先のルートなど丁寧に説明していただけ、温かい気持ちで先へと進みました。
ここから剣御前小屋への登りでは、やはり無理ができないマイペースの歩行。剣山荘に着いた時(14時過ぎ)には、今日中に下山してしまおうかと欲が出ましたが、剣御前小屋到着は15時過ぎになり、17時の最終バスには間に合いそうもないと諦めました。しかし、ここからの下りで状況は一変。一気にグリセードで滑り降り、雷鳥沢キャンプ場に到着。ここで翌日の天気を確認すると「下界は曇りから雨なので、(標高の高い)ここは、それより良くないでしょう」という話なので、ここで、残っていた水2㍑を放出して、室堂バスターミナルまでの「室堂ダービー」スタート!(富山県警レスキュー最前線に記載の富山県警山岳警備隊の訓練最後に行う室堂ダービーのこと)
急に最終バスに間に合い下山できるという希望が見えてきたからか、身体の中の非常用発電機(?)が運転を始め室堂バスターミナルへ30分で到着。ゆっくりと最終バスに間に合うことができた。・・・が、酷使した身体は、バスに乗った途端に脚から悲鳴を上げ始め、翌日には全身の筋肉痛となるのでした(>_<)。
今回のソロ山行では、「歩き続ける」ことを常に意識していた結果、たった1日の梅雨の晴れ間(快晴)の中で安全に下山することができました。そして目標としていた「一か八かはしない!100回やっても100回安全に下山する。」については、登山道と言えども残雪によりルートファインディングで苦労しましたが、常に落ち着いて危ない場面も皆無でした。ただ、今回のルートを100回やろうとは、絶対に思いませんねー(^_-)。
ムー