ぶっつけ本番ビバーク!コブ尾根 ~2019.6.1-2~

dakekanba-admin

山域:北アルプス 穂高 コブ尾根
日程:2019年6月1日(土)~2日(日)
参加者:ムー、ドリル

岳樺クラブの先輩「平島靖子」さんと、お世話になった山岳ガイド「澤田実」さんを想って
岳樺クラブに所属しているメンバーは全員、北アルプスの穂高にある岳沢小屋の裏手からジャンダルムへと伸びるコブ尾根には特別な思いを持っています。

それは、岳樺クラブの大先輩である平島靖子さんが亡くなったルートであるからです。平島さんと私は、面識はありませんでしたが、私と同じように山を始めたのは中高年になってからで、平島さんの山行記録を見ると次から次へと山行を重ねてステップアップしていったことが分かります。きっと平島さんは「次はどこに登ろう♪」「あそこにも、ここにも行きたい!」「もっと若いうちから登山を始めていたら良かったなぁ~」「いつまで、こんな登山ができるのだろう・・・」等と、いつも私が考えているようなことを思っていたのではないかと勝手に想像しています。
さて、そんなコブ尾根に挑戦するとなれば、計画を立てるのにも他のルート以上に特に慎重に検討しなければいけません。参考になる記録は、GWに登攀したものが圧倒的に多いです。私もここ数年のGWは、岳沢をベースとして2年前の西穂沢から西穂高岳、昨年のダイレクトルンゼから前穂高岳、それにプラスして多くの山行経験を重ねステップアップしていたので、「今年はコブ尾根に行けるか?」とGW前に悩んでいました。
そんな時に、雪崩講習やアイスクライミング講習、洞窟探検など、山を始めたばかりの私に山の楽しさが広がるような知識を与えてくれ、体験をさせてくれた山岳ガイドの澤田さんのガイドプランの事を思い出しました。澤田さんは毎年、6月初めにコブ尾根のガイドプランを実施していました。その際の写真等を見て、雪の状況が安定・温暖になる気象条件・活動時間の長さ等がGWよりも安全側に働くだろうと思い6月に実施しようと決めました。
今年も澤田さんから送られてきたガイドプランでは、我々が予定していた翌週に設定されていたので、もしかして雨天等で我々の計画が延期となれば、「途中で、会うこともあるかも。でも、岩場とかで会ったら何だか(技術の未熟さを見られて)恥ずかしいなぁ」と思っていました。しかし、そんな澤田さんは先月(5/17)のカムチャッカ半島カーメニ峰への遠征中に亡くなってしまいました。講習会では、いつも穏やかでニコニコしていて、そして安全に常に気を配ることを意識して教えてくれた方なので、山で亡くなるということが信じられませんでした。
そういうこともあって、「6月にコブ尾根」と決めてからも“失敗した時に招く結果への漠然とした恐れ”や、雪の状況は日々変化するので「現地がどうなっていても対応できるのか?」と言う現実的な不安が付きまとっていました。しかし、自分の登攀技術と知識向上、経験を得るためにも行きたいルートだったので、行かないという選択肢はなく、出発日が近くなってドリさんと具体的な計画を相談するうちに「怖いのは雪壁の角度がどれほど急なのか分からない」ことで、「対処するために考えられる装備は準備したし、無理をする必要はないんだ」と確認しあったことで落ち着きました。
金曜日、中央道の集中工事で大渋滞にはまり東京を抜けるのに苦労したが、沢渡には日付が変わる前に到着し装備の最終確認をして、スノーバーを1本、クライミングシューズを1人分持っていく事と、持っていくカムのサイズを決めてから、始発バスに備えて仮眠する。

朝、4時に起きて5時の始発バスの発車間際に乗ると満員ではなかった。早い人はタクシーで出発しているようで、我々も早く上高地から歩き出したいことには変わりないが、土曜日は登れるところまで登ってテント(ビバーク)泊し、日曜日に下山する計画なので慌てることはなく、上高地からドリさんを先頭に岳沢トレイルを快調に進み8時半に岳沢小屋に到着する。

岳沢小屋は、にぎやかなGWとは違いテント1張に若い外国人が数人のみという静かなものだった。小屋のテラスで休憩後、落石に備えヘルメットをかぶり、小屋のヘリポート側からコブ沢へと進む。

残雪はカチカチではなかったが、アイゼンを装着してから登りだす。コブ沢はすぐに急角度となり1時間ほどでコブ沢からコブ尾根へと上がるルンゼに分岐し、少し進んだ草付きで休憩する。

この辺りで平島さんが乗鞍岳を見て写真を撮っていたように、残雪をまとうことで高い山だとわかる乗鞍岳が、晴天にくっきり映えていた。

ルートはこの先でさらに角度が増すので、両手にピッケルとアックスを持ち3点確保で登っていくことにする。

尾根まであと少しの所に登ってくると雪渓が切れている箇所があり、その草付きも急角度のため緊張する。また、ハイマツ漕ぎする部分もあり体力を使う。

岳沢小屋からマイナーピーク(2735m)まで標高差は550mほどだが、3時間以上もかかってしまった。ここで休憩がてらガチャを付ける。雪があればスノーボラードで懸垂下降するが、融雪が進み露出した懸垂支点を使用することができた。ここからは岩場とハイマツ漕ぎと雪稜を繰り返し、コブ岩の基部へと進む。

アンザイレンして1P目、階段状のルートをアイゼンの前歯を意識しながら攀っていく。テラスへと抜ける際に角度が急になり緊張する部分があった。そして、核心と言われる2P目、こまめに残置ハーケンで支点を取りながら進むが、足を置く場所が乏しく苦戦する。「クラックにアイゼンごとジャムして抜けた」と言う記録のコメントを思い出し、「ヒーヒー」言いながらA0でなんとか突破した。

3P目は、やさしい階段状を上がった後、右にトラバースして手足のしっかり有る壁を再び攀る。テラスに辿り着き、その先のトラバースした先が見えず、残りのロープが5m程度となったので、一度ピッチを切り上がってきたドリさんに先に進んでもらうとコブ岩の終了点となる懸垂支点が待っていた。

空中懸垂気味に降りた先は雪稜で、いよいよここからコブ尾根もラストスパート!・・・となる部分だが時間切れ、岳沢小屋から暫く歩いた感じでは「最低でも稜線までは行ってビバーク」と楽観的に思っていたので、かなり焦る。懸垂して下りた標高分だけ登り返して、ちょうどコブ岩と同じ高さ(2900mくらい)にあったテラスで、テントを張るような平らな部分は無いが、強引にテントを設営する。

スペースが狭いので「参ったなぁ~」「落ちないように」「横になれないかも知れない」を独り言のように繰り返す。暗くなる前に雪を溶かし沸騰させようとしたがバーナーの調子がイマイチ(のちにガス缶とコンロを接続し直したら復旧)で、お湯程度だが食事にする。テントの上のクラックにカムを極めてドリさんと私それぞれにロープで確保する。

テントはピナクルからスリングを巻いてカラビナで連結し、対角の雪塊にピッケルを刺して固定した。薄暗くなると途端に冷えてくるので、テントに入り有るもの全て(と言ってもレインウエアのみ)を着てシェラフに足を入れると、やっと落ち着くことができた。通常ならテントの長手方向に横になるのだが、凸凹の関係で横手方向に座り明日の予定を簡単に相談して、睡眠不足なのですぐに寝た。

・・・とは言え、座っているので船を漕ぐと低い方へ滑り落ちそうになり「ハッ!」となるし、足を曲げて窮屈な姿勢で横になっても身体中が痛くなるは、痺れるはで。。。ただ、気温は氷点下にならず、風も穏やかだったのが幸いして適度に休息できたし、想像以上に早く空が明るくなってきた。

ヤマテン予報では、1日曇りだったが雲は高く晴れ間ものぞく良い天気で「昨日のように日差しが強いと暑いので、今日みたいな天気の方が快適ですね♪」とドリさんと話しながら、簡単に朝食を済ませ撤収する。

6時に再出発、稜線までは200mの標高差だが時間に余裕はあるので、慎重にルートを見極める。

雪のリッジは迷うことも無いが、岩場はルートを間違えると難しい場所もありそうで、見回しながら登りやすい箇所を登り8時に稜線に飛び出した。

ここまで来れば一安心。ジャンダルムに寄り道して記念写真!

穏やかなジャンダルムでガチャ類をザックに収めて下山開始。奥穂高岳~西穂高岳間は、国内最難関の縦走路とは言え、ペンキマークや踏み跡も明瞭なので足さばきに集中して歩くことができた。心配した残雪や氷は所々にあったが、アイゼンを外したままで通過や迂回ができた。天狗のコルからはシリセードで一気に岳沢小屋へ。「登るのは11時間もかかったのに、下るのは40分・・・あっという間ですね、下りが楽で良かった~♪」なんて、ドリさんと話しながら快適に下山出来ました。

長く生きて来れば「絶対は、あり得ない」と誰かが言うのを聞いたことや、自分で同じようなニュアンスの事を言ったことが誰にでもあるのではないでしょうか。山でも「絶対」と言う言葉を信じて裏切られることが残念ながら起こります。有名な登山家だけでなく一般人も山で遭難したというニュースをよく聞きます。誰でもそうだと思いますが、身近な方が遭難してしまったという出来事は、ニュースで聞く遭難よりも衝撃が大きいのではないでしょうか?
人によっては、登山を止めてしまう場合もあるのではないでしょうか?ですが、私は今すぐに登山を止めようとは思いません。準備をしていれば澤田さんの軽量化のアドバイスがあったり、立ち止まって見る景色に感動した瞬間に平島さんを想像したり、仲間とワイワイと楽しんでいる際に皆を思い出したり・・・山に取り組み続けることで、山を通して知り合った方々が私の心の中に浮かんでくる。それだけでも登山をする目的になるような気がします。会長である竜少年や微苦笑さん、Mierinさんが長く山を続けているのは、そういったこともあるのではないでしょうか?今度、思い出話を聞いてみようと思います。
また、山に行きます!
ムー



続いてドリルさんのレポートです。

今回は、まだ雪が残るコブ尾根に登ってきました。朝5時に沢渡からバスに乗り込み上高地に入ると、これから登るコブ尾根が見えました。

まずは岳沢小屋を目指し登り始めます。途中、凍っている所や雪が残っている所が有りましたがアイゼン無しでも大丈夫でした。
岳沢小屋で水の補給とアイゼン、ヘルメットを装着しコブ沢に向かいます。コブ沢から尾根へと向かうルンゼから傾斜が急になりましたが、アイゼンはしっかり効きました。

マイナーピークの懸垂地点は雪が溶けて支点が出ていましたので難なく通過できました。

次のコブ岩の懸垂地点の岩場は、雪が溶けてロープを出さないと進めない箇所も有りましたが無事懸垂地点に着きました。懸垂支点となる岩は、少し降りた位置にあり、そこから懸垂しました。
ここからコブの頭へと続く最後の登りに向かったのですが、途中で私の体力が尽きてビバークすることになりました。

滑落しないようロープで確保して、落石を考えてヘルメットをかぶり、テントに座って寝るという辛い体勢でしたが、何とか翌朝を迎えることができました。

少し曇っていましたが上高地もきれいに見え気持ちの良い天気です。最後の雪壁を登り岩稜を越え無事コブの頭に到着しました。ここからアイゼンを外し、天狗のコルを目指します。

ムーさんにずっと先頭を進んでもらいましたが、ルートの選び方が凄く的確でルートファインディングとは地図が読める、自分の位置が分かる、ルートを間違わない、だけではなく安全に進めるルートを探せる能力が必要なのだと分かりました。

必要な時には立ち止まって周りを確認しているムーさんが頼もしく思えました。
天狗のコルから私は尻セードで楽ができ岳沢小屋に到着しました。

岳沢小屋から出発して小屋に帰って来るまで誰とも会わず貸し切り状態のコブ尾根でした。帰りの上高地バスターミナルでは、バスの券を無くして買い直すというハプニングが有りましたが、無事に下山出来て良かったです。

ドリル