剱岳 八ツ峰 Ⅵ峰Cフェイス(剣稜会ルート)から上半 ~2018.8.2-4~

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山域:北アルプス 剱岳 八ツ峰Cフェイス(剣稜会ルート)+上半
日程:2018/8/2(木)-4(土)
メンバー:ムー(L)、みっちゃん
ルート:8/2 室堂→剱沢キャンプ場 8/3 剱沢キャンプ場→長次郎谷→八ツ峰Ⅵ峰Cフェイス(剣稜会ルート)→八ツ峰上半(Ⅵ峰~Ⅷ峰、八ツ峰の頭)→池ノ谷乗越→剱岳本峰→別山尾根→剱沢キャンプ場 8/4 剱沢キャンプ場→室堂

アルパインという言葉の定義は、日本であまりはっきりとしていません。
ロープを使ってピークハントすればアルパインになるのかもしれませんが、今回の八ツ峰は山岳地域の岩壁登攀、まさにアルパインでした。


今回、剣沢のテン場を朝3:00にヘッデンスタートし八ツ峰を周遊して、20:30にヘッデン下山。出てから戻るまでに17時間半かかりました。
やっと我が家(テント)に戻ってきた時は、剣沢のテン場は漆黒の闇に包まれていました。
以前の岳樺では時々(ヘッデンスタート、ヘッデン下山が)ありましたが、ムーさんがすっかりソレを継承してしまったようです。


Ⅵ峰で安全な取り付きを見つけるのに時間がかかったことと、Ⅷ峰からの懸垂で先行パーティーに追い付き・待たされたこと以外は、これと言って大きな問題はなく、むしろCフェイス登攀はスピーディーでテンポ良く、とても良い登攀だったとお互いを褒めたいくらいでした。


それでも17時間半かかったのです。そして、初めて体力の限界が見えました。
2年前に北方稜線を歩いた時(その時の記録はこちらをクリック)、核心はルーファイでしたが、今回は経験済みだった為、苦労しませんでした。
むしろ、時間的にも難易度的にもかなり大変だった八ツ峰の前に北方稜線をやっておいて良かったと思いました。
みっちゃん

 

 

ザイルパートナーのみっちゃんは、自称「finetracker(ファイントラッカー)」と言うほど、ウエア等の購入時は“finetrack”へのこだわりを持っている。最近は私も影響を受けてウエアやテントは、まずfinetrackのものを検討している。・・・それが剱岳とどういう関係があるのか???finetrackerの皆さんはお気づきかも知れませんが、もう少し出発前の話しにお付き合いください。
岳樺クラブでは毎年3月の第2土曜日に、全会員で前年の振り返りや今年の計画を話し合う「総会」が行われています。私はその際に今年の目標として「八ツ峰」をあげました。会長の「いいねー!」もいただき、みっちゃんと絶対に達成したいと考えていました。その理由の説明には更に日付をさかのぼります(すぐ終わりますから(*^^*))。


総会の半月ほど前・・・家に届いたfinetrackの春夏カタログの表紙は「霧の立ち籠める長次郎谷を背に剱岳八ツ峰VI峰」のリッジを登攀するインパクトのある写真(添付のもの)でした。ウエア等の機能の良さでfinetrackを選択しているみっちゃんだが、カタログの表紙の写真はさして気にしていないことを気付かずに「みっちゃんも同じ写真を撮りたいだろう!」と、猛進し始めた私がいたのでした・・・。


国際山岳看護師や登山ガイドの資格取得のため、忙しかったみっちゃんも「八ツ峰」という目標達成のためにGW後から2人でトレーニングを兼ねた山行を続け、しっかりとステップを踏んで準備ができたので、詳細の計画を立てました。ルートは、剣沢キャンプ場をベースに日帰り装備の軽さを活かして、迅速にⅥ峰Cフェイスから八ツ峰上半を縦走、剱岳本峰に登頂し、別山尾根を剣沢に戻るというものです。


混雑を避けるため平日に休暇を取りましたが、扇沢駅の無料駐車場に到着した23時頃には7割方が埋まっていました。始発のトロリーバスから室堂までアルペンルートを順調に乗り継いで剣沢キャンプ場には午後イチに到着。剣沢派出所で明日のルート情報を確認した後で、テントを設営するもテント内は温室状態。出入口を全開状態にしても暑い。

ただ、明日の準備も済んでやることが無いので『デーン!』と構えている剱岳を眺めながら休憩。明日登る予定の八ツ峰Ⅵ峰が源次郎尾根Ⅰ峰とⅡ峰の間から見える。「明日はあそこから逆にテントを見ることができるかな?」などと話す。今日の剱岳はたまにガスがかかるが、基本的に快晴!明日も予報は晴れなので、安心して日暮れとともに就寝する。


アタック日。2時に起き、3時に出発する。今年は、剣沢雪渓の雪解けが早いせいで、雪渓を歩けず夏道をしばらく下降する。薄い雲が広がり月明かりが半減しているため、轟音でソレだろうと判断した黒ユリの滝を過ぎてから、アイゼン・ピッケル装備で雪渓上を下降する。先行するパーティーがいたが、源次郎尾根に取り付いていく。先に見える長次郎谷の出会いでは、真砂沢から上がってきたパーティーが長次郎谷を上がっていく。平日とはいえ、やはり夏の剱、多くの人が入っている。


長次郎谷の出会いからは、左に源次郎尾根、右に八ツ峰を見ながら、ひたすらに長次郎谷を登る。雪の状態は良く、アイゼンがしっかり効くので、気楽に登っていくと、後から勢いよく登ってきたソロと2人組が「Cフェイスは、雪の状態が悪いみたいですね。」と言葉を残してⅠ・Ⅱ峰ルンゼから取り付く。熊の岩が迫ってくると、Ⅵ峰もその姿がはっきり分かるようになる。剣沢派出所の情報では、Cフェイスの取り付きは「ブロック注意」とあったが、確かに大きな雪の塊が確認できた。そして先行パーティーは八ツ峰上半縦走のスタート地点となるⅤ・Ⅵのコルへと上がっていく。また、熊の岩から出てきた4人組パーティーも、Cフェイスに見向きもせずトラバースして、やはりⅤ・Ⅵのコルへと向かっていくようだ。


そんな状況から「やはり、Cフェイスの取り付きは危なくて近づけないのかな?」という心の声が、どんどん諦めムードを強くしていくが、みっちゃんの「Aフェイスの基部からトラバースできるか確認しよう。」という一言で再びスイッチが切り替わる。雪解けとともに崩れてガレガレのままのAフェイス基部を慎重に、そして、戻れなくならないように気を付けながら進む。背の高さよりも高い雪の塊の脇を抜けてBフェイスの取り付きまで着くと、岩場までブロック雪が重なっておりBフェイスを乗越っさないと進めず、その先もどうなっているか分からない。


そこで一度、Aフェイス基部まで戻って、雪渓をトラバースしてDフェイス側から回り込むと割とスムーズに取り付き部に入れた。ただ、この状況は、雪が全て解けるまで刻々と変わるため、次回も同じように取り付けるか保証はない。と同時に、登攀中も3度ほど何か大きなものが「ゴゴゴーッ」と崩れていく音が、谷の中で収まり切れずに広く響き渡っていた。カチカチの雪渓だが傾斜の付いた取り付き部までにはクレバスやシュルンドがあり、その時の状況判断が必要だと改めて感じた。


実際にCフェイス剣稜会ルートの取り付きは、いつ崩れるか分からない雪に覆われていたため、少し長次郎谷側から取り付くことにした。ここで、登攀具を装着しロープをつなぎ、クライミングシューズに履き替える。今回のルートは八ツ峰登攀の入門ルートとはいえ、初見の我々には不安が大きかった。

しかし、いざ取り付いてみると、上へ上へと向かって快適に登攀できるルートで、支点はハーケンが随所にあり、より安心して登ることができた。


2ピッチ目の終了点には、しっかりとしたペツルが2本打ってあるので分かりやすいが、他のピッチの終了点はテラスっぽい箇所が多いため、分かりにくかった。ただ、それが大きな問題になることはない。あえて書くなら3P目の終了点は、4P目のトラバースするリッジの手前まで登って切らないと、4P目の流れが悪くなる。


4P目は、このルートのハイライト、finetrackの春夏カタログの表紙となった“リッジ”だ。最初、みっちゃんがリードすると言うが、それでは、カタログの写真が撮れない、強引に説き伏せて私がリードするが、私は高所が苦手であった(>_<)。最初にリッジ上に出る場所が一番ハラハラして「怖ーっ」とか「ウーッ」と叫び声を上げる。

みっちゃんの「だから私が(リード)するって言ったのに~( `―´)ノ」という、後ろからの声を聞こえないフリをしてジリジリと進んだ。そこを超えてしまえば、あとは問題ないトラバース。

2018ファイントラック春夏カタログの表紙
納得の1枚!!!

振り返りながらカタログ表紙写真の撮影位置に近いような支点を探す。ハーケンが多くあるので、見当をつけてみっちゃんを呼び込む。普段はスタスタ先を急ぐ(!?)私が珍しく何枚も写真を撮っていると「そろそろ進むよ~」と言われて撮影会は終了。


最後の5P目をCフェイス終了点までみっちゃんがリードして〆た。

ここで、初めて行動食を口にして一息付けた。今回の核心はこの登攀と考えていたので、安堵した。また、待ちもなく2人でスムーズに登攀できたので、時間に余裕があり気分的にはだいぶ楽になった。さらにⅥ峰の頭まで移動すると、剣沢キャンプ場がしっかり見え、達成感を感じられた。


Ⅵ峰からは八ツ峰の上半を縦走する。小ピークがあるため、自分の位置がはっきりせず、事前に調べた情報と違うことに不安を覚える。また、縦走ルートを上がってきた先行パーティーに懸垂ポイントで追いつくこともあり、待つこともあると考えたほうが良い。

Ⅷ峰からの懸垂では3人組のおとなしい大学生(?)が下りるのを待つ間に話したが、彼等は無線で別パーティーと連絡を取り合い、八ツ峰の頭には進まず長次郎谷右俣を下り真砂沢に戻るとのことだった。八ツ峰の頭からは、有名なクレオパトラニードルという岩峰がシュッと見える。

しかし、手前のⅥ峰やⅦ峰では横長に見え、それと気付かなかった。稜線を進むためルートをロストすることは無いと思うが、分かっていれば安心感が違うと思う。ミステリーを読んでいたら、最後になって解けなかった謎が一気に解決するのは、爽快かも知れないが、登山では地図上の現在地が分からないのは、実力不足を認識させられて恥ずかしい。


八ツ峰の頭から、またもや懸垂し池ノ谷乗越に着く。ここは、2年前に北方稜線で通過したところ(その時の記録はこちらをクリック)、やっと安全圏に戻ってきたと実感できる。

しかし、安全圏と言ってもテントまでの距離はあるし、岩場のアップダウンを繰り返すので、2年前の記憶をたどり2人で相談しながら慎重に進み、誰もいない剱岳本峰山頂に到着。


山頂で写真だけ撮って、2人とも下降でしか使ったことのない別山尾根を慎重に下りる。今までで最も遅い時間に山頂を通過しているが、ここまで辿り着いたら焦りはない。夕日に照らされ輝いた雲海は初めての眺めで、しばし立ち止まってしまったのは脚が疲れていたからではないはずだ。


テント場に着くと20時半、行動時間17時間半。長かった。明日のアタックに備えて休んでいる人に気を遣いながら夕食の準備をしたが、食べ始めるとみっちゃんは思ったよりも食欲がないようで、ありがたく一人で全部平らげてしまった。翌朝は、少し寝坊したが、“早く下山したい病”になった私は、明るくなる頃には起きる。みっちゃんも元気になって朝食を摂る。室堂までの僅かな登りでは脚の疲労を感じる度に、今回の山行の満足感へと変換されて、のんびりでも快適な下山路となった。


今年立てた目標も17時間半行動の末に無事にクリアすることができ、とても良い経験になった。会長が毎年総会で「山行の安全第一を絶対的なものとするため、個人として体力の維持向上に努力を払う」と言うとおり、やはり最後は体力勝負となるのは登山の常だと思うが、今回のルートは我々中高年クライマーには、体力的にかなり厳しく、翌日は室堂へ下山するか、休養しないといけないと感じた(;^ω^)。
ムー