ライトアルパン12景

最近岩場に出かけると、岳樺世代(40歳以上、上は青天井)の中高年クライミング愛好者たちで花盛りです。みなさん、とても元気ですが、30kg以上の荷物を担いで歩けるわけでなく、今風の大ハングを攀じ登れる訳でもなさそうです。

クライミングはスポーツであり文化でもあるということは、もはや万人の認めるところでしょう。そうであるなら、いくつもの水準・楽しみ方つまり多彩なコンセプトがあってしかるべきで、既成概念の虜に留まることはないと思います。

自分の時間・責任で楽しんでいるのだから、グレードで誰にも文句を言われる筋合いはないはずです。大事なことは、楽しんでいること、事故を起こさないこと、そして可能ならば現代の広大なクライミングの世界と繋がっていることです。

その精神に立って、われら中高年クライミング愛好者のために、「ライトアルパインルート12景」を報告します。

「ライトアルパイン」とは、私たち岳樺クラブの造語です。

標高差おおむね1,000m以内、

稜線または取付き付近に営業小屋があり緊急時にも避難しやすいこと、

そして合計ピッチ数は10ピッチ以内のクライミングルート。

加齢による体力の低下が悩みの私たち中高年世代でも、努力すれば手の届くことのできるレベルのクライミングです。本格的なアルパインを実践している人、目指している人から見れば笑われてしまうレベルかも知れません。

しかし、ハイキングを越えた領域でいつまでも岩と戯れていたい私たちにとっては十分に満足できるし目標にもなりうるレベルだと思っています。
もちろん、クライミングで落ちないこと、落ちても大丈夫なようにプロテクションをとることを前提としたクライミングですが。

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■ お勧めルート12

1. 幕岩悟空スラブ
ここは、岳樺クラブのライトアルパインの聖地です。アプローチは幕岩のトポをご覧下さい。30分ほど歩くとスラブ基部にでます。スラブを30mほど登り、左のカンテ(岩塔)を50mほど登ると終了点です。途中でピッチをうまくきり3ピッチにしないと、最終ピッチでロープが少し足らなくなるかもしれません。

支点はRCCボルトで、3ピッチ目が5.7くらいです。この上にスラブ(5.8)、クラック(5.9)、スラブ(5.8)と2ピッチを岳樺クラブで開拓しました。ペツルのボルトが打ってありますが、現在は苔むしているかもしれません。軽い藪こぎ15分くらいで山頂にでます。

秋から春が旬で、振り向けば海と森の「クライミング+ハイキング」のルートです。是非、訪れてください。

参考記事

2. 西上州碧岩西稜
なんと言っても、碧(みどり)岩という名前が素晴らしいのです。西上州勘能集落近くにある碧岩のピークから派生する岩と藪のリッジです。三段ノ滝の上をしばらく行くと右岸にケルン(壊れているかも)があり、そこから濡れたルンゼをのぼりリッジに出て草付きを登ります。後は藪と側面が岩のリッジをのぼり、最後がもろい岩場を30mくらいのぼります。いずれも岩場は、3から4級までなのですが、濡れている、もろい、草付きと日本を正しく代表しています。
景観は、これは痩せたリッジですから、近くに西上州の岩峰、遠くに信越の山々とまことに恵まれています。秋の半日、日本のドロミテ(泥みてぃ?)を楽しんでください。日本昔話の風景とロッククライミングが見事に融合した★★★ルートです。岳樺クラブ創設のコンセプト・ハイグレードハイキングで通ったルートです。ライトアルパインの故郷です。詳しくは山行記録を参照ください。

3. 乾徳山・旗立岩中央岩稜
乾徳山の山頂付近にある旗立岩の一番長い岩稜を登るもので、100m足らずですが、夏雲の中にあるときなど滝谷かなと勘違いするほど一見迫力があります。

岩は堅いのですが残置ピトンはほとんど信頼できないので、ピトンを打ちフレンズ・ナッツを使ってください。

1ピッチ目(45m)後半が核心部で4級+からV級-というところです。2ピッチ目(35m III級-)、3ピッチ目(20m III級)は快適そのものです。また、頂上直下にも第一岩稜や第三岩稜などのルートもあります。

アプローチは、林道終点の大平牧場から乾徳山手前の旗立岩まで高原のような所を歩き、標高差650mです。富士、南アルプスを眺めながらと、眺望に恵まれています。旬の時期はやっぱり春、秋ですね。ハイキングとクライミングを楽しめます。詳しくは山行記録を参照下さい。

4. 二子山・西岳中央稜
6ピッチ150m余の石灰岩の岩稜です。石灰岩の性格からして乾いている秋から冬が良いのですが、あんまり寒いのも辛いので旬の時期は10月下旬から11月でしょうか?
2ピッチ目は左のボルトルート(5.8)が快適です。3P目はこの中央稜の核心であるコーナークラック(要フレンズ、ハンドからシンハンドクラックのサイズ)も、右のバリエーションルート「ラップタイム」(5.9)もお勧めです。3P目終了後は、大テラスでくつろげます。4,5,6ピッチ目は2から4級+くらいですが、キチンとナッツやフレンズを使った方が安心です。終了点から踏み跡をわずかに登ると縦走路にでますが、展望はなかなかすばらしいものです。アプローチの難しさといのは当然皆無ですが、クライミングの内容は充実しています。詳しくはHP参照。

5. 三ツ峠
三ツ峠は本ちゃんのゲレンデという色彩が強いのですが、初夏の花を愛でてのアプローチも悪くないし、富士を背にしてのマルチピッチクライミングは爽快です。
ここの課題はクライミング動作より、古くなって朽ち果てている確保支点や中間支点です。是非ピトンを打ち、ナッツ・フレンズを使って登ってください。

一番のお勧めは亀(鶴)ルートです。このルートは4ピッチ80mですが、「うーん?」と感じるのは、3P目の終了点つまり八寸バンドの手前の確保支点です。もちろん、いくつかのリングボルトが打たれ効いているようですが、トラバースで落ちた場合果たして大丈夫なのか疑問なのでエイリアンをポケットに入れて補強しています。

その他にも、中央カンテ(3ピッチ60m)やリーダーズピッチ(IV+)からクーロアール(V)を経て権兵衛チムニー(V-)(計3ピッチ)など、充実感のあるルートが揃っています。参考記事

6. 瑞牆山・大ヤスリ岩ハイピークルート
瑞牆山と言えば十一面岩周辺や不動沢沿いのフリールートが人気ですが、ちょっとハードルが高いですね。
ここに紹介するハイピークルートは、瑞牆山の頂上直下に聳える大ヤスリ岩のてっぺんまで延びる爽快な人工を1ピッチ含むルートです。

登山口から取り付きまでの2時間弱は楽しいハイキングコースです。取り付きからは計4ピッチの短いながらも充実したクライミングが続きます。3ピッチまでは硬い花崗岩をフリーで登る好ルートで、最終の4ピッチ目は40mのA1。ほぼ垂直に切り立った空中散歩が楽しめますよ!参考記事

7. 小川山・屋根岩2峰セレクション
6ピッチ120m、クラック・スラブ・チムニーと変化に富んだ明るいルートです。小川山なら5月から10月までいつでもベストシーズンですね。

1ピッチ目のクラック5.8と2ピッチ目のダイヤモンドスラブ5.8が核心部ですが、4ピッチ目の出だしのクラック5.7も意外と難しいかもしれません。しっかりとペツルのボルトが打たれていますが、シンハンドからハンドクラックのサイズのフレンズは必要でしょうね(特に1ピッチ目)。

それから、廻り目平は、意外と朝は夏でも冷えますので要注意。また、家族連れキャンパー、釣り人、フリークライマーがテントサイトで共存していますので、岳人も身嗜みに注意しましょう。参考記事

8. 小川山・スラブ状岩壁の頭まで
ガマルートと呼ばれています。有名なガマスラブから始めて、スラブとクラックの6ピッチ150mくらいのルートです。プロテクションはリングボルト、ペツルのボルト、フレンズといろいろです。
核心部は5ピッチ目の5.8くらいのスラブ、水平クラックをほぼ中間支点なしで登る個所です。このルートはどうした訳か案内記事が乏しく、岳樺クラブのHP(2000年7月22日~23日の小川山)を参照してください。

時々緊張するクライミング、眼下に広がる森、静かで牧歌的な雰囲気です。下降は懸垂2回でマガスラブ側におります。時間に十分余裕があるでしょうから、ここで5.7から10台のショートピッチクライミングも楽しんでください。

9. 城が崎フナムシロック
クラックは練習する機会もあまりなく、5.7までのクラックならクラックの技を必要としないので、一般的にはクラックと疎遠になるみたいです。
と言って5.9あたりから始めると、10+のボルトルートより難しく感じられます。クラックの技を知ってナッツ・フレンズと親しくなるとクライミングの世界が広がりますし、支点にかかる力を三次元・上下方向に考えるなどロープワークに対する注意力も養われます。

フナムシロックは5.6から5.9+までのクラックがずらりと並んでいますし、トップロープのセットも容易です。秋から春、北風が海岸で遮られた陽だまりで、是非トライしてください。15m足らずのクラックが偉大な世界に変貌するかもしれません。参考記事

10. 錫杖岳・前衛壁左方カンテ
8ピッチ250mあまりのルートです。カンテという名称ですが、各ピッチとも広いテラス(広場といったところもあります)に恵まれ、3,7,8ピッチ目を除いて露出感に乏しく林の中のゲレンデクライミングという雰囲気です。
核心部は7ピッチ目の出だし5.8(A0)ですが、ピトンは良く効いているようです。人気ルートらしくピトンもキチンと打たれ確保支点、中間支点とも心配はすくなく、ナッツやフレンズの小さなサイズで補強してやれば万全です。また、支点となる木も多く、どのピッチからでも懸垂下降で敗退可能です。その意味でも下降は登ったルートを懸垂で下るのが確実かもしれません。

右俣沢、錫状沢下降は、懸垂の支点をピトンで補強する必要もあり、時間がかかりますので、あまりお勧めではありません。

新穂高の登山口から取り付きまで歩いて2時間ほど、クライミング中は近くに穂高岳、焼岳、遠くに乗鞍、眼下にクリヤ谷と眺望を満喫できることを併せて考えると、お勧めの本ちゃんルートです。難しいピッチが最後の方なので、前夜に登山口までやってきて十分睡眠をとってトライしてください。参考記事

11. 北岳バットレス4尾根主稜
これは説明するまでもなく、堅い岩、優れた眺望、お花畑など高山の雰囲気、超人気ルートです。岳樺クラブでも、広河原からの日帰り、4尾根でビバークしての継続、白根御池のテントサイトから、白根御池小屋からといろいろな登り方をしています。
クライミング動作そのものは決して難しい訳でありませんが、中高年の場合、余裕という観点から「小屋をベースにして、できたら平日」という計画を勧めます。時間・お金とも贅沢ですが。2002年8月のHPの記録を参照してください。頂上小屋を利用しての継続も、トライしてみてください。参考記事

12. 赤岳西壁北峰リッジ(主稜)
これもあまりの人気と混雑のため、登っていても緊張感が無くなることがありますが、独標登行会の往年の記録を読むと、緊張感と情熱が伝わってきます。
赤岳頂上に突き上げたリッジで、ルートとして申し分ありません。標高差300mあまりというスケール、頂上小屋の存在、下降は一般ルートということでなにかと安心です。冬の晴れた日、遠く北アルプスを背に登ってください。当会が冬季クライミングを最初に開始したルートであり、HPにさまざまな記録があります。参考記事

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山の会「岳樺クラブ」がお勧めする「ライトアルパインルート12景」いかがでしたでしょうか?

冒頭にかかげたライトアルパインの「3原則」にもとづいて選定してみたつもりです。これら12ルートの間でも難易度には差がありますし、アルパインルートというよりもゲレンデという認識のところもあるだろうし、スポーツクライミング的なエリアもまざっているかもしれません。

ゲレンデもかつては本チャンルートを登るための「手段」として登られていましたが、それらのルート自体を「目的」として訪れてもいいと私たちは考えています。

攀じるという行為が広大で多様なクライミングの世界につながっていることを実感できればいいのです。
岳樺クラブは、ハイキングを越えた領域の登山、ライトアルパインの世界で、これからも活動を続けていくつもりです。

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【番外篇、ジョーゴ沢左方ルンゼ】

アイスクライミングはギアで登る側面があるので、あんまり勧めるわけにもいかないのですが、縦走用アイゼンを砥いで有り合わせのバイルで登れるルートを探すと、その1本です。

4級くらいですから、裏同心と同じグレードですが、混雑はありません。ジョウゴ沢のF3を登って少し歩き、左の浅いルンゼに入ります。数ピッチ登ると、年によって当然様子が違いますが、から滝に出会うのでそこで左右の尾根のどちらかを木を支点に懸垂を交えて降ります。2000年1月2日のHPの記録をご参照ください。
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※アルパインクライミングは自己責任で行うスポーツです。上記紹介ルートを登攀の際、万が一の事故が発生しても、岳樺クラブは一切の責任を負えません。その点はくれぐれも御注意下さい。